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馬の文献:橈骨骨折(Janicek et al. 2009)

「成馬橈骨の遠位骨幹骨切術部における頭側プレートと力学的骨端螺子プレートの併用および二枚のプレート固定術の生体力学的比較」
Janicek JC, Wilson DA, Carson WL, Kramer J. An in vitro biomechanical comparison of dynamic condylar screw plate combined with a dorsal plate and double plate fixation of distal diaphyseal radial osteotomies in adult horses. Vet Surg. 2009; 38(6): 719-731.

この研究論文では、馬の橈骨骨折(Radial fracture)の内固定術(Internal fixation)における有用な術式を評価するため、二十本(十組)の成馬の屍体前肢(Cadaveric forelimb)から採取した橈骨に、遠位骨幹部の骨切術(Distal diaphyseal osteotomy)を施し、頭側プレート(=ダイナミック・コンプレッション・プレート:Dynamic compression plate [DCP])と力学的骨端螺子プレートの併用(Dynamic condylar screw plate combined with a dorsal plate)もしくは二枚のDCPプレート固定術(Double plate fixation)によって整復し、生体力学的試験(In vitro biomechanical testing)によって、整復箇所の物理的強度が比較されました。

結果としては、圧迫試験(Compressive testing)、捻転試験(Torsional testing)、内外側屈曲試験(Medial-to-lateral bending)、外内側屈曲試験(Lateral-to-medial bending)、頭尾側屈曲試験(Cranial-to-caudal bending)、尾頭側屈曲試験(Caudal-to-cranial bending)の六種類の試験法における、硬度(Stiffness)、変位度(Displacement)、破壊負荷(Failure load)などを見ると、いずれも二種類の整復法のあいだに有意差を示していませんでした。また、プレート設置されていない側からの圧迫によって、プレート設置側の骨面の硬度は、骨切術が施されていない骨とほぼ同程度の測定値を示していました。このため、馬の橈骨骨折に対するプレート固定術では、DCPと力学的骨端螺子プレートを併用する術式、および、二枚のDCPを用いる術式において、同程度の整復強度が達成できることが示唆されました。

この研究では、骨切術部位における整復強度を評価するため、近位および遠位骨端(Proximal/Distal epiphysis)をセメント内に埋め込むことで圧迫&捻転&屈曲試験が実施されたため、骨端部の骨組織が破損する場合の強度および破損形式(Failure mode)は評価されていません。力学的骨端螺子プレートにおいては、骨端組織内に太い骨端螺子が挿入され、それがプレート端に堅固に保持される構造であるため、この骨端部位における整復強度を大きく向上できると推測できる反面、太い骨端螺子が挿入される際により多くの骨組織が取り除かれる事になるため、骨端部の破損を生じる危険は増す、という仮説が成り立つかもしれません。このため、この骨端箇所に対する影響については、更に詳細な生体力学的試験を要すると考察されています。

この研究では、使われた全てのプレートがDCP構造でした。しかし、もしDCPの変わりにロッキング・コンプレッション・プレート(Locking compression plate: LCP)が使用された場合には、LCP 固定術に使われる全ての骨螺子がプレート内に堅固に保持される構造であることから、頭側LCP+力学的骨端螺子プレートの併用による術式と、二枚のLCPを用いた術式のあいだに有意差は生じにくく、また、力学的骨端螺子プレートがDCP構造であった時には、二枚のLCPを用いた術式のほうが、骨幹中央部~骨幹遠位部における強度は、むしろ高くなる可能性があると考えられました。

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馬の病気:橈骨骨折

馬の文献:橈骨骨折(Fuerst et al. 2008)

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「模擬蹴傷による馬の橈骨および脛骨の骨折立体構造」
Fuerst AE, Oswald S, Jaggin S, Piskoty G, Michel S, Auer JA. Fracture configurations of the equine radius and tibia after a simulated kick. Vet Comp Orthop Traumatol. 2008; 21(1): 49-58.

この研究論文では、馬の橈骨(Radius)および脛骨(Tibia)における骨折の発症機序を検証するため、71本の馬の屍体肢(Cadaveric limb)に対する模擬的蹴傷(Simulated kick)として、馬蹄型をした金属棒による衝撃を与え、そのときの橈骨および脛骨の破損状態を、高速度カメラ(High-speed camera)と三次元レントゲン検査(Three-dimensional radiography)によって評価されました。

結果としては、不完全骨折(Incomplete fracture)を呈した骨は37%(=このうち全てが長軸性骨折:Longitudinal fracture)、完全骨折(Complete fracture)を呈した骨は63%で、この完全骨折のうち、蝶形骨片(Butterfly fragment)を伴ったのは52%、単純骨折(Simple fracture)であったのは48%であったことが示されました。また、単純完全骨折の内訳を見ると、斜位骨折(Oblique fracture)が85%と圧倒的に多く、次いで、横骨折(Transverse fracture)が10%、長軸性骨折が5%となっており、これらの骨折に長軸性の亀裂骨折片(Fissure fragment)を伴った骨は98%に上っていました。

一般的に、馬の橈骨および脛骨の蹴傷では、横骨折の際に生じた楔形骨片の尖端(Tip of wedge-shaped fragment)が、多くの場合に衝撃が掛けられた側に変位することが知られています。蹴傷によって骨に屈曲性負荷(Bending loading)が掛けられた時には、凸側(Convex side)の骨面には緊張力(Tension force)、凹側(Concave side)の骨面には圧迫力(Compressive force)が生じるため、横骨折線は緊張力面に起始するのに対して、斜位骨折線は圧迫力面に起始することもある、と推測されています。そして、横骨折線が緊張力面から圧迫力面へと伸展していって、凹側面に蝶形骨片を発生する際には、楔型部分の骨片は近位および遠位骨折端から圧迫を受けて押し出されることになり、その変位は凹側骨面の方向、つまり、衝撃が掛けられた側に生じる結果につながる、という考察がなされています。

この研究では、高速度カメラの映像において、静的な衝撃(Static impact)が掛けられた場合と異なり、模擬蹴傷のような急激な衝撃(Rapid impact)が掛けられた場合には、骨組織が吸収するエネルギーが大きくなることが示され、また、転倒時の人間の橈骨のように、蹴傷以外の様式で屈曲負荷が掛かる場合には、横骨折+蝶形骨片を生じ易いことが知られています。このため、大きな衝撃が急激に生じる場合(=馬の蹴傷)には、横骨折よりも斜位骨折の病態を呈しやすく(=この研究では85%)、その際には、蝶形骨片ではなく、亀裂骨折片を発生する可能性が高い(=この研究では98%)と考察されています。この結果から、馬の橈骨または脛骨の骨折に対する内固定(Internal fixation)においては、例えレントゲン像ではシンプルな骨折構造に見えたとしても、骨折線周囲に亀裂骨片を生じている可能性を十分に考慮することが重要である、と提唱されています。

この研究では、馬の橈骨と脛骨では、骨折の立体的構造に顕著な違いが見られ、橈骨では亀裂骨片を伴うことが多かったのに対して、脛骨では蝶形骨片を伴うことが多かったことが報告されています。一般的に、円柱形に近い馬の橈骨に比べて、三角柱形に近い馬の頚骨では、骨の断面積(Cross-sectional area)、皮質骨の厚み(Cortical thickness)、中立軸からの距離(Distance from neutral axis)などが大きいため、極性の慣性モーメント(Polar moment of inertia)の増加、つまり、強度(Strength)および硬度(Stiffness)の上昇につながると考えられます。このため、脛骨は橈骨よりも、骨折が発生する前に骨組織に吸収される負荷が大きくなり、衝撃が掛けられた側ではなく、反対側の皮質骨面(=張力面)から横骨折線を生じるケースが多くなり、その対側に当たる圧迫力面に蝶形骨片を形成する結果につながった、という考察がなされています。

この研究では、骨折発症の瞬間を高速度カメラで正確に捕らえるため、筋肉や腱などの軟部組織を全て取り除いた骨を使って実験が行われました。馬の長骨骨折を生じるほどの蹴傷を作用させるためには、蹴るほうの馬の蹄は秒速8m以上の速度で動いている必要があることが示されましたが、これに軟部組織が吸収する衝撃の量を加味すると、少なくともそれ以上に高い衝撃(=馬同士がより近付いている状態で蹴られた場合)を必要とすることになる、と考察されています。

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馬の病気:橈骨骨折

馬の文献:橈骨骨折(Bolt et al. 2003)

「ダイナミックコンプレッションプレートと周回ケーブルシステムを用いての橈骨骨折の整復が行われた馬の一症例」
Bolt DM, Burba DJ. Use of a dynamic compression plate and a cable cerclage system for repair of a fracture of the radius in a horse. J Am Vet Med Assoc. 2003; 223(1): 89-92.

この症例論文では、ダイナミックコンプレッションプレート(Dynamic compression plate: DCP)と周回ケーブルシステム(Cable cerclage system)を用いての橈骨骨折(Radial fracture)の整復が行われた馬の一症例が報告されています。

患馬は、九歳齢のペルヴィアンパソ牝馬で(体重395kg)、三週間にわたる左前肢の重度跛行(グレード4)の病歴で来院し、レントゲン検査によって、橈骨の尾側骨幹部(Caudal mid-diaphysis)から肘関節(Elbow joint)まで達する長軸性斜位骨折(Longitudinal oblique fracture)の発症が確認されました。治療としては、全身麻酔下(Under general anesthesia)で病巣清掃(Debridement)された後、一枚のDCPが頭側皮質骨面(Cranial cortex)に設置され、アミカシン含浸骨セメント(Amikacin-impregnated bone cement)によるプレート接着術(Plate luting)が併用されました。そして、周回ケーブルシステムを用いて、三本の直径2mmのステンレスケーブルによって橈骨を周回させるように骨折片間の締め付けが行われました。

術後には、吊起帯(Sling)による寝起き制限と、副木を併用したロバート・ジョーンズ・バンテージが装着され、徐々に罹患肢への体重負荷ができるようになりました。患馬は、一ヶ月後に退院し、二ヵ月後に妊娠中だった子馬を無事に出産し、この時点でのレントゲン再検査で、正常な骨折治癒が起きていた事が確認されました。その後、患馬は良好な予後を示し、軽度跛行(グレード1)は持続的に見られたものの、繁殖牝馬(Breeding mare)としての飼養に問題なく用いられたことが報告されています。

一般的に、馬の橈骨の完全骨折(Complete fracture)に対する内固定術(Internal fixation)においては、子馬では頭側面に一枚のプレート、成馬では頭側面と外側面に一枚ずつの合計二枚のプレートが用いられます。しかし、この症例では、普通の子馬よりも馬体は大きかったものの、前腕部のサイズから二枚のプレートを設置するのは困難であったため、頭側面への一枚のDCP設置に併せて、周回ケーブルによって長軸性骨折片同士を締め付けることで、整復強度を向上させる術式が選択されました。周回ケーブルは、断面積が円形でない馬の橈骨遠位部では、必ずしも有効な整復法ではないと考えられますが、この症例では、橈骨の骨幹中央部~近位部(Mid-diaphyseal to proximal aspects)のかなり円柱状に近い形状の部位に対しては、比較的に堅固な骨折片間圧迫(Inter-fragmentary compression)を作用させられたことが報告されています。

過去の整形外科文献によれば、周回ワイヤーによって骨膜血流循環(Periosteal blood circulation)が阻害されて、皮質骨の虚血(Cortical bone ischemia)および骨折治癒不全(Fracture nonunion)を引き起こすという知見がある反面(Newton et al. JAVMA. 1974;164:503)、周回ワイヤーと骨表面の隙間を通って十分な血液供給が維持されるという、相反した研究結果(Conflicting result)も示されています(Kirby et al. JOR. 1991;9:174)。しかし、この症例報告、および他の馬の橈骨に対する周回ワイヤーの使用例を見ても(Nyrop et al. Vet Surg. 1990;19:249)、骨膜から血液供給が阻害されたり、それによって術後合併症(Post-operative complication)を続発するという知見は示されていません。

この症例において、内固定術による橈骨骨折の治療成功が達成された要因としては、(1)プレート&周回ケーブル固定術が、長軸性斜位骨折の立体構造(Fracture configuration)に合致しており、堅固な骨折部整復が達成されたこと、(2)患馬の気質が大人しく、落ち着いた麻酔覚醒(Anesthesia recovery)を示し、吊起帯による寝起き制限にも、良好な順応性(Adequate adaptation)を示したこと、(3)開放骨折(Open fracture)を起こしておらず、病巣の細菌感染(Bacterial infection)や骨髄炎(Osteomyelitis)を続発しなかったこと、などが挙げられています。

この症例では、骨折整復後にも慢性の軽度跛行が見られましたが、その原因については詳細には考察されていません。しかし、斜位骨折線は肘関節腔まで達していたため、関節面の不連続性や軟骨損傷(Damage to articular cartilage)を生じていた場合には、肘関節の骨関節炎(Osteoarthritis)を続発した可能性も考えられるかもしれません。

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馬の病気:橈骨骨折

馬の文献:橈骨骨折(Matthews et al. 2002)

「橈骨最小変位性骨折に対して保存性療法が応用された馬の三症例」
Matthews S, Dart AJ, Dowling BA, Hodgson DR. Conservative management of minimally displaced radial fractures in three horses. Aust Vet J. 2002; 80(1-2): 44-47.

この症例論文では、橈骨の最小変位性骨折(Minimally displaced radial fracture)を呈した三頭の成馬の症例に対する、保存性療法(Conservative management)による治療成績が報告されています。

一頭目の患馬は、十歳齢のサラブレッド去勢馬(Gelding)で、24時間にわたる左前肢の非負重性跛行(Non-weight-bearing lameness)の病歴で来院し、レントゲン検査によって、橈骨の外側骨幹部(Lateral mid-diaphysis)から骨幹端(Metaphysis)、骨端(Epiphysis)、前腕手根関節(Antebrachio-carpal joint)に達する斜位骨折(Oblique fracture)および開放骨折(Open fracture)の発症が確認されました。治療としては、ロバート・ジョーンズ・バンテージの装着と馬房休養(Stall rest)による保存性療法が選択され、患馬は徐々に罹患肢への体重負荷を示し、八週間目のレントゲン検査では、多量の仮骨形成(Substantial callus formation)が認められました。患馬は、退院後も良好な予後を示し、骨折から一年後には跛行再発(Lameness recurrence)を起こすことなく、乗用馬としての騎乗使役に復帰したことが報告されています。

二頭目の患馬は、十一歳齢のクォーターホース去勢馬で、蹴傷のあと九日間にわたる重度跛行(グレード4)の病歴で来院し、レントゲン検査によって、内側骨幹部から外側骨幹端部に達する最小変位性の螺旋状骨折(Spiral fracture)および開放骨折の発症が確認されました。治療としては、ロバート・ジョーンズ・バンテージの装着と馬房休養による保存性療法が選択され、患馬を馬房壁に曳き手でつなぐ手法(Cross-tie confinement)で寝起き制限されました。しかし、患馬は五週間後に非負重性跛行を呈し、レントゲン検査で腐骨形成(Sequestrum formation)が示されたため(上写真)、それから二ヵ月後に全身麻酔下(Under general anesthesia)で腐骨部の病巣清掃(Debridement)が行われました。患馬は、この手術の一週間後に退院し、その後も良好な予後を見せ、骨折から一年後には跛行再発を示すことなく、乗用馬としての騎乗使役に復帰したことが報告されています。

三頭目の患馬は、“高齢”のストックホース去勢馬で、五日間にわたる右前肢の重度跛行(グレード4)の病歴で来院し、レントゲン検査によって、橈骨の骨幹部から前腕手根関節に達する最小変位性骨折および閉鎖骨折(Closed fracture)の発症が確認されました。治療としては、ロバート・ジョーンズ・バンテージの装着と馬房休養による保存性療法が選択され、患馬は数日間にわたる食欲不振(Inappetence)を呈したものの、徐々に罹患肢への体重負荷を示し、三ヶ月後には放牧が再開され、骨折から八ヶ月後には跛行再発を示すことなく、放牧場での正常歩様(Pasture soundness)に回復したことが報告されています。

この症例報告では、三頭の成馬における橈骨不完全骨折(Incomplete fracture)に対して、保存性療法による治療成功が示されましたが、内固定術(Internal fixation)による外科的療法が選択されなかった要因としては、骨折片変位(Displacement of fracture fragment)が最小限で骨折部は比較的に安定していると推測されたこと、および、経済的な理由が挙げられています。全肢ギプス(Full-limb cast)の装着は、患馬が馬房内でもがいて骨折を悪化させる危険があったため選択されず、また、馬房内に張ることで寝起きを制限する手法も、一頭のみに実施され、他の二頭は比較的に大人しい気質であったため、馬自らが馬房内で立っている時間を長く取ったり、罹患肢に負担を掛けないような起き上がり方を学ぶという順応性(Adaptation)を示した、という考察がなされています。

この症例報告では、初診時のレントゲン検査において、最小変位性の橈骨骨折を確定診断(Definitive diagnosis)するため、僅かに角度を変えながら多数のレントゲン撮影を要したことが報告されています。一般的に、馬の橈骨不完全骨折では、初診時のレントゲン検査では骨折線が明瞭には見つからない場合があることが知られており、この場合にも、馬房休養を続けながら一~二週間後にレントゲン再検査をすることで、周辺に骨吸収(Bone resorption)が起こり始めた骨折線を、より容易に発見できると提唱されています。また、初診時に核医学検査(Nuclear scintigraphy)による放射医薬性取込の増加(Increased radiopharmaceutical uptake)を確認することで、早期に不完全骨折の推定診断(Presumptive diagnosis)を下す指針も有効であると考察されています。

一般的に、成馬の長骨骨折(Long-bone fracture)では、対側肢の負重性蹄葉炎(Support laminitis on contralateral limb)の合併症を引き起こす危険が高いことが知られています。この症例報告では、鎮痛剤(Analgesics)として非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drug: Phenylbutazone)を投与することで、対側肢に持続的および過度の体重負荷(Prolonged/Excessive weight bearing)が掛からないよう努められた反面、鎮痛が行き過ぎて馬が動き回り過ぎると、不完全骨折が完全骨折(Complete fracture)へと悪化する危険があるため、非常に慎重な投与濃度の調整(Judicious adjustment of dosage)を要した、という考察がなされています。

この症例報告の一頭目の患馬では、初診時の関節液検査(Arthrocentesis)によって、前腕手根関節における出血性滑液(Hemorrhagic synovial fluid)が認められましたが、関節内に生食を注入した場合には、前腕外側部の創傷からの漏出は示されず、外傷箇所と関節腔(Articular cavity)は連絡していなかったこと(=細菌感染は関節内には達していなかった)が確認されました。

この症例報告の二頭目の患馬では、細菌感染(Bacterial infection)と虚血(Ischemia)に起因すると考えられる、橈骨内側部の腐骨が発見された時には、仮骨形成が不十分ではなく、麻酔覚醒(Anesthesia recovery)によって完全骨折へと病態悪化する危険が考慮されました。このため、その時点での外科的治療は行われず、その後の二ヶ月間にわたる全身性抗生物質療法(Systemic anti-microbial therapy)が継続され、骨折箇所がある程度、堅固に治癒したと判断された時点で、全身麻酔下での腐骨除去が実施されました。この間には、起立位手術(Standing surgery)による腐骨除去は不成功に終わったことが報告されており、また、感染病巣(Infectious lesion)が骨組織で被覆されている腐骨部に対しては、抗生物質含浸PMMA(Antibiotic-impregnated polymethyl methacrylate)の充填や、抗生物質の局所灌流(Regional limb perfusion)によっても、細菌感染を取り除くことは困難であると予測された、という考察がなされています。

この症例報告では、三頭の症例のうち二頭において、骨折線が関節腔まで達していましたが、いずれのも患馬も、前腕手根関節における変性関節疾患(Degenerative joint disease)を続発することなく、比較的に良好な予後を示しました。しかし、この症例報告では、関節鏡手術(Arthroscopy)による関節面の不連続性(Irregularity in joint surface)および関節軟骨損傷(Damage to articular cartilage)の有無または重篤度の判定は行われていませんでした。

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馬の病気:橈骨骨折

馬の文献:橈骨骨折(Rodgerson et al. 2001)

「骨端螺子インプラントを用いての橈骨遠位部の骨折整復が行われた成馬の一症例」
Rodgerson DH, Wilson DA, Kramer J. Fracture repair of the distal portion of the radius by use of a condylar screw implant in an adult horse. J Am Vet Med Assoc. 2001; 218(12): 1966-1969.

この症例論文では、橈骨遠位部の骨折(Distal radial fracture)を呈した一頭の成馬の症例に対する、骨端螺子インプラント(Condylar screw implant)を用いての外科的療法による治療成績が報告されています。

患馬は、八歳齢のアラビアン去勢馬で(体重550kg)、転倒のあとの左前肢の非負重性跛行(Non-weight-bearing lameness)の病歴で来院し、レントゲン検査では、橈骨遠位部の骨幹端斜位骨折(Oblique metaphyseal fracture)が示され、開放骨折(Open fracture)の病態を呈したことが確認されました。

治療では、全身麻酔下(Under general anesthesia)で、内側アプローチ、および、総指伸筋(Common digital extensor muscle)と橈側手根伸筋(Extensor carpi radialis muscle)のあいだの筋膜を切開することによる外側アプローチが行われ、まず二本の皮質骨螺子(Cortical bone screw)で骨折部が仮固定されました。そして、蛍光透視装置(Fluoroscopy)を介して遠位骨端(Distal epiphysis)にドリル穿孔およびガイドピンが挿入され、トリプルリーマーを用いて骨端螺子を挿入することで、骨端螺子プレート(Condylar screw plate)が内側皮質骨面(Medial cortex)に設置されました。その後、もう一枚のダイナミック・コンプレッション・プレートを頭外側皮質骨面(Cranio-lateral cortex)に設置することで、骨折箇所の内固定術(Internal fixation)が行われました。

プレート固定後には、持続性吸引ドレイン(Continuous suction drain)の設置と、抗生物質含浸PMMAビーズ(Antibiotic-impregnated polymethyl methacrylate beads)の充填も併用され、吊起帯(Sling)を使用しての麻酔覚醒(Anesthesia recovery)が実施されました。術後に患馬は、馬房に曳き手で張ることで寝起き制限され、術後の九日目には、皮下にたまった漿液を超音波誘導穿刺(Ultrasound-guided aspiration)によって排液し、術後の25日目に抗生物質含浸PMMAビーズが除去されました。術後の八週間目のレントゲン検査では、骨折部位の治癒とインプラントが正常に保持されていることが確認され、この時点で寝起き制限を終了し、患馬は十週間目に退院しました。

患馬は、退院から六ヶ月目にグレード4跛行のため再入院し、レントゲン検査では、骨端螺子プレートの下部における骨溶解(Osteolysis)が認められたことから、全身麻酔下でこのプレートが除去されました。そして、患馬は、骨折発症から十六ヶ月目に運動復帰し、その後は跛行再発(Lameness recurrence)することもなく、順調に騎乗使役されたことが報告されています。

一般的に、長骨の近位&遠位端(Proximal/Distal end of long bone)における骨折では、骨端螺子を挿入することで、サイズの小さい骨端側の骨折片に対しても、強固にプレートを設置することができる事が知られています。この症例においても、骨端螺子によって遠位骨折片を堅固につかむようにプレート設置することで、斜位骨折整復に対する内固定術の強度を大きく向上できたと考えられました。また、成馬の橈骨完全骨折では、頭側と外側皮質骨面(Cranial and lateral cortex)に二枚のプレートが使用されることが多いですが、この症例では、骨折の立体構造(Fracture configuration)を考慮して、橈骨の内側および頭外側皮質骨面へのプレート設置が選択されました。

この症例では、開放骨折に伴うインプラントへの細菌感染(Bacterial infection)および骨髄炎(Osteomyelitis)を続発する危険性があったため、抗生物質含浸PMMAビーズを術創に充填して、極めて高濃度の抗生物質をインプラント周辺に局所作用させることで(=静脈投与よりも数百倍高い濃度)、十分な骨折治癒が達成されたと考えられました。また、初回の手術時においてPMMA内に含浸させる抗生物質としては、静脈投与するのが難しいアミカシン(成馬の場合には静注では高額になり過ぎるため)が選択されました。さらに、抗生物質含浸PMMAを用いてのプレート接着術(Plate luting)を併用するという選択肢もありうる、という考察がなされています。

この症例では、一度目の手術のあとに、術創からの検体を用いて病原体培養(Pathogen culture)および抗生物質感受性試験(Anti-microbial susceptibility testing)が行われ、カンジダ属真菌が分離されました。このため、この病原菌に有効な抗真菌剤であったアンフォテリシンBを含浸させたPMMAが、術部の軟部組織内へと充填され、術後合併症(Post-operative complication)を続発することなく、真菌感染(Fungal infection)が制御されたことが報告されています。また、皮下に溜まった漿液は細菌感染に伴う浸潤液ではなかったため、鋭い骨折端によって傷付けられた腱鞘(Tendon sheath)から漏れた滑液が貯留(Synovial fluid accumulation)したものであった、という考察がなされています。

この症例では、術後に、骨端螺子プレートの下部での骨溶解と、それに伴う重度跛行を発現したことから、このプレートの外科的除去が選択されました。しかし、この合併症の発現時には一度目の手術から八ヶ月以上が経っていたため、細菌感染や骨の血流不全(Bone avascularity)によるものとは考えにくく、直径の大きい骨端螺子を用いてのプレート固定が施された箇所において、正常な生理的弾性運動が阻害(Restriction of normal physiologic elastic motion)されて骨溶解に至った、という病因論が仮説されています。

この症例では、骨端螺子プレートの除去の際に、レンチによって螺子の除去が試みられましたが、レンチが破損したため、プレート外筒(Plate barrel)を用いて骨端螺子プレートの除去が達成されました。また、骨端螺子プレートが除去された後、もう一枚のダイナミック・コンプレッション・プレートはそのまま残されましたが、この残存したプレートに起因すると考えられる疼痛や跛行は認められませんでした。

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馬の病気:橈骨骨折

馬の文献:橈骨骨折(Schneider et al. 1995)

「抗生物質含浸PMMAを用いての馬の橈骨開放骨折の治療」
Schneider RK, Andrea R, Barnes HG. Use of antibiotic-impregnated polymethyl methacrylate for treatment of an open radial fracture in a horse. J Am Vet Med Assoc. 1995; 207(11): 1454-1457.

この症例論文では、橈骨開放骨折(Open radial fracture)を呈した一頭の馬の症例に対する、抗生物質含浸PMMA(Antibiotic-impregnated polymethyl methacrylate)を介しての外科的療法による治療成績が報告されています。

患馬は、15歳齢のモルガン牝馬で(体重500kg)、左前肢の非負重性跛行(Non-weight-bearing lameness)および遠位頭側橈骨の創傷(Wound on disto-cranial aspect of radius)の病歴で来院し、レントゲン検査では、遠位橈骨の粉砕性横骨折(Comminuted transverse fracture)と、近位骨折の尾外側変位(Caudo-lateral displacement of proximal fragment)が見られ、外側部への開放骨折を呈したことが確認されました。

治療では、全身麻酔下(Under general anesthesia)での病巣清掃(Debridement)、抗生物質含浸の棒状PMMAの充填、海綿骨移植(Cancellous bone graft)、および、全肢ギプス(Full-limb cast)の装着が行われました。その後、抗生物質含浸PMMAの充填と、全肢ギプスの交換が続けられ、三ヵ月後の再手術において、四本の皮質骨螺子(Cortical bone screw)を用いての骨折部の外科的整復が実施されました。

術後、患馬は罹患肢への十分な体重負荷を示し、一ヵ月後と三ヵ月後のレントゲン再検査では、良好な骨折部の骨性癒合(Bony union)と仮骨形成(Callus formation)が認められました。治療開始から八ヶ月目には、患馬は初診時に妊娠中であった子馬を無事に出産し、その一ヵ月半後の再検査では、軽度の跛行を示すのみで、その後も繁殖牝馬としての使役に復帰できたことが報告されています。

一般的に、成馬の橈骨における開放完全骨折では、細菌感染(Bacterial infection)と骨髄炎(Osteomyelitis)を続発して、予後不良となる場合が殆どです。しかし、この症例では、初診時には敢えて内固定(Internal fixation)を行わず、局所性の抗生物質療法(Local anti-microbial therapy)によって、骨折箇所の感染を制御した後に、螺子固定(Lag screw fixation)による骨折整復を実施したため、比較的に良好な骨折治癒が達成されたと考えられました。また、全肢ギプスが装着されていたため、術創からの持続的な排液(Continuous drainage)は困難であったにも関わらず細菌感染を減退できたのも、局所性の抗生物質療法が奏功したためと考えられました。

この症例に応用された、抗生物質含浸PMMAを術創内に充填させる手法では、PMMAの溶解(Elution)によって、経静脈投与(Intravenous administration)の数百倍におよぶ高濃度の抗生物質を、局所的に作用させることができます。また、PMMAに含浸させる抗生物質として、馬の整形外科感染(Orthopedic infection)の原因菌に有効である場合が多いと予測される、アミカシンとセフチオファーを選択したことも、この治療法が奏功した要因の一つであると考察されています。この症例では、抗生物質含浸PMMAの充填および摘出を容易にするため、棒状に固められたPMMAが使用されましたが、PMMAの溶解速度はその表面積に比例するため、ビーズ状に固めたPMMAを縫合糸で数珠状に連結された状態で充填されるほうが、PMMAから遊離される抗生物質の量をより多くできる、という提唱もなされています。

この症例では、二度目の手術の際に、螺子固定術のみでの骨折整復が試みられましたが、これは、プレート固定術(Plate fixation)を行うと全身麻酔(General anesthesia)の時間が長くなり過ぎて、妊娠中の子馬に危険が及ぶためであったと報告されています。このため、患馬が妊娠牝馬でない場合には、十分に時間を掛けて強度の高いプレート固定を応用することで、より堅固な骨折部の不動化(Stabilization)と、早期の骨折治癒を促進できたと推測されます。しかし、その反面、患馬が妊娠中であったからこそ、予後不良になる危険性が高いと予測されていたにも関わらず、安楽死(Euthanasia)ではなく、敢えて高額な外科的療法が選択されたとも言えるかもしれません。

この症例では、充填された抗生物質含浸PMMAは外科的に除去されず、埋め込まれた状態でそのままにされましたが、退院後もインプラント残存に伴う顕著な合併症(Complication)は認められませんでした。一般的に、感染部位に埋め込まれたPMMAからの抗生物質の遊離は、数年以上も続くことが知られていますが、局所的な抗生物質の濃度は、数ヵ月後がピークであると予測されています。

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馬の病気:橈骨骨折

馬の文献:橈骨骨折(Zamos et al. 1994)

「橈骨遠位部骨折の整復が行われた馬の二症例」
Zamos DT, Hunt RJ, Allen D Jr. Repair of fractures of the distal aspect of the radius in two horses. Vet Surg. 1994; 23(3): 172-176.

この症例論文では、橈骨の遠位部骨折(Fractures of distal aspect of the radius)を呈した二頭の馬の症例における、螺子固定術(Lag screw fixation)を介しての外科的療法による治療成績が報告されています。

一頭目の患馬は、11歳齢のクォーターホース牝馬で、左前肢の急性発現性(Acute onset)の重度跛行(Severe lameness)(グレード4跛行)の病歴で来院し、前腕遠位内側部の腫脹(Swelling on disto-medial aspect of antebrachium)と、前腕手根関節(Antebrachio-carpal joint)の膨満(Effusion)が示されました。レントゲン検査では、骨端内側部(Medial aspect of epiphysis)の斜位完全骨折(Complete oblique fracture)が見られ、近位内側方向への骨折片変位(Proximo-medial displacement of fracture fragment)が認められました。治療では、二本の螺子挿入による骨片の内固定術(Internal fixation)が実施され、術後には左後肢の麻酔後筋症(Post-anesthetic myopathy)と、一時的な跛行悪化を呈したものの、手術から20日目に無事に退院しました。その後、患馬は良好な予後を示し、手術から32ヶ月目において、乗用馬として騎乗使役されていたことが報告されています。

二頭目の患馬は、15歳齢のサラブレッド去勢馬で、左前肢の非負重性跛行(Non-weight-bearing lameness)(グレード5跛行)と前腕部腫脹の病歴で来院し、レントゲン検査では、遠位橈骨の螺旋状粉砕骨折(Comminuted spiral fracture)と、骨折片の内側変位が認められました。治療では、骨折部の病巣清掃(Debridement)と、二本の海綿骨螺子(Cancellous bone screw)および四本の皮質骨螺子(Cortical bone screw)による内固定術が実施されました。しかし、患馬は術後の七日目に対側肢の負重性蹄葉炎(Support laminitis on contralateral limb)を続発し、進行性の跛行の悪化(Progressive lameness exacerbation)を呈したことから、残念ながら術後の五週間目に安楽死(Euthanasia)が選択されました。

この報告の二頭目の症例において、予後不良となった要因としては、骨折片の整復後にも完全な関節面の再構築(Articular surface reconstruction)が達成されず、前腕手根関節面に1mmのギャップを生じていたことから、術後に罹患肢への十分な体重負荷が見られず、対側肢の合併症を起こしたと考察されています。一方、一頭目の症例では、骨折片の整復後に関節面の平坦化が達成され、手術直後から罹患肢への良好な体重負荷ができたため、十分な骨折治癒と、負重性蹄葉炎および変性関節疾患(Degenerative joint disease)の予防につながったと推測されています。

一般的に、馬の橈骨の遠位部における骨折は、成馬ではその殆どが皮膚創傷(Skin wound)を伴うことから、蹴傷などの外傷に起因すると考えられますが、子馬では転倒などに起因して、橈骨遠位部の骨端骨折(Distal radial physeal fracture)の病態を呈することが多いと提唱されています。また、成馬の橈骨骨折における保存性療法(Conservative treatment)は、非変位性の非関節性骨折(Non-displaced non-articular fracture)の場合にのみ奏功することが知られており、この報告の二症例においては、馬房休養(Stall rest)やギプス装着のみによる保存性療法では、十分な骨折治癒は期待できなかった、という考察がなされています。

この症例報告では、いずれの患馬に対しても、麻酔覚醒(Anesthesia recovery)および手術後における全肢ギプス(Full-limb cast)の装着は行われておらず、この理由としては、ギプス上端が近位前腕部に位置することで、この箇所が支点(Fulcrum)となって、骨折整復箇所に異常な負荷が掛かると推測されたことが挙げられています。

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馬の病気:橈骨骨折

馬の文献:橈骨骨折(Baxter et al. 1991)

「成馬における橈骨開放骨折の整復」
Baxter GM, Moore JN, Budsberg SC. Repair of an open radial fracture in an adult horse. J Am Vet Med Assoc. 1991; 199(3): 364-367.

この症例論文では、橈骨の開放骨折(Open radial fracture)を呈した一頭の馬の症例における、外科的療法による治療成績が報告されています。

患馬は、四歳齢のアラビアン去勢馬(体重450kg)で、左前肢の橈骨開放骨折の病歴で来院し、レントゲン検査では、骨幹部から遠位部に達する螺旋状骨折(Spiral fracture)の発症と、骨折片の尾外側変位(Caudo-lateral displacement)、および、前腕内側部における開放骨折の発症が確認されました。

治療としては、橈骨の頭側および外側皮質骨面(Cranial and lateral cortex)への二枚のプレート設置による骨折整復、骨折部への海綿骨移植(Cancellous bone graft)、ロバート・ジョーンズ・バンテージの装着が行われ、全身性抗生物質療法(Systemic anti-microbial therapy)も併用されました。術後には、前腕内側部の創傷箇所からの滲出液排出(Exudate drainage)が見られたものの、手術から十日目までには治癒し、四週間目に退院しました。

その後は、馬房壁に患馬をつないて寝起きを制限する治療法のあと、三ヶ月にわたる馬房休養が行われ、九ヶ月目のレントゲン再検査では、良好な骨折治癒が確認されました。しかし、患馬は中程度の跛行(グレード3)、および前腕内側部の疼痛性腫脹を呈したため、手術から十ヶ月半目の再手術によって、二枚のプレートが除去されました。その結果、この三ヶ月目には跛行が消失し、患馬は障害飛越馬としての使役に復帰したことが報告されています。

この症例のような、成馬における橈骨完全骨折では、骨折の治癒遅延(Delayed-union)、癒合不全(Nonunion)、偽関節(Pseudoarthrosis)などに至る場合が多いことが知られており、開放骨折によって術後に細菌感染(Bacterial infection)を続発したケースでは、さらに予後が悪化すると考えられます。この研究の症例において、内固定術(Internal fixation)が奏功した要因としては、斜位骨折(Oblique fracture)の病態が外科的に堅固に整復されたことが挙げられており、また、サイズの大きい螺子(5.5mm)の使用、海綿骨移植の併用、適切な抗生物質療法の実施、スムーズな麻酔覚醒(Anesthesia recovery)なども関与したと考察されています。

一般的に、馬の開放骨折における外科的療法では、細菌感染および骨髄炎(Osteomyelitis)の合併症(Complication)を起こす危険が高いため、その治療に際しては、広範囲にわたる病巣清掃および洗浄(Extensive debridement and lavage)を行い、細菌培養(Bacterial culture)と感受性試験(Susceptibility test)に基づく抗生物質の選択が重要であると考察されています。また、抗生物質の局所灌流(Regional limb perfusion)や、抗生物質含有PMMAのインプラント周辺部への充填またはプレート接着法(Plate luting)などによって、骨髄炎を防げる症例もあると考えられました。

この症例では、骨折治癒後にも罹患部位の周辺部における慢性の疼痛性腫脹(Chronic painful swelling)が認められ、前腕部の診断麻酔(Diagnostic anesthesia)を介しての跛行改善によって、内固定部の感染が疼痛の原因であることが示唆されたため、二枚のプレートの外科的除去が選択されました。また、手術から十ヶ月以上にわたって続いた慢性疼痛が、プレート除去後には速やかに消失したことによっても、この内固定部の細菌感染に伴う疼痛発現が裏付けられると考えられました。

この論文は、成馬における橈骨の開放性完全骨折に対する外科的療法によって、十分な骨折治癒と良好な予後が達成された稀な症例であると言えます。しかし、同様な病態を呈した症例においても、術後合併症から予後不良となる危険性はやはり高いこと、そして、初診時の手術費だけでなく、長期間にわたる抗生物質療法やバンテージ装着、感染症の治療やプレート除去のための再手術に、高額な治療代が掛かることなどを、馬主や調教師と十分に議論して治療指針の同意を得ることが重要である、という考察がなされています。

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馬の病気:橈骨骨折

馬の文献:橈骨骨折(Barr et al. 1989)

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「橈骨の非変位性骨折を呈した馬の三症例」
Barr AR, Denny HR. Three cases of non-displaced radial fracture in horses. Vet Rec. 1989; 125(2): 35-37.

この症例論文では、橈骨の非変位性不完全骨折(Non-displaced incomplete radial fracture)を呈した三頭の馬の症例における、保存性療法(Conservative treatment)による治療成績が報告されています。

一頭目の患馬は、18歳齢のサラブレッド牝馬で、蹴傷後の18日間にわたる右前肢の重度跛行(Severe lameness)の病歴で来院し、レントゲン検査では、橈骨遠位の頭側&内側&外側皮質骨にまたがる複数の非変位性骨折線が確認されました。治療としては、馬房休養(Stall rest)による保存性療法が選択され、二週間後のレントゲン再検査では、骨折線の幅がより広くより不鮮明になり、皮質骨面への仮骨形成(Callus formation)が見られました。患馬は、退院後も八週間にわたって馬房休養が続けられ、その後、徐々に運動使役に復帰し、骨折から三年後まで生存したことが報告されています。

二頭目の患馬は、16歳齢のポニー去勢馬で、五週間にわたる左前肢の重度跛行の病歴で来院し、レントゲン検査では、橈骨遠位の外側&尾側皮質骨における非変位性骨折線、皮質骨面の骨新生、外側骨面の不連続性(Discontinuity of lateral cortex)などが確認されました。治療としては、九週間にわたる馬房休養による保存性療法が選択され、九週間目のレントゲン再検査では骨折線が殆ど見えないほどまで治癒していたため、骨折後の四ヶ月目から運動が再開され、その後は跛行の再発(Recurrence)もなく、順調に騎乗使役に復帰したことが報告されています。

三頭目の患馬は、12歳齢のサラブレッド牝馬で、11日間にわたる右前肢の重度跛行の病歴で来院し、レントゲン検査では、橈骨遠位の内側皮質骨における非変位性骨折線、尾側骨面の不連続性などが確認されました。治療としては、ロバート・ジョーンズ・バンテージの装着と馬房休養による保存性療法が選択されましたが、十日目に跛行の悪化を示し、レントゲン検査によって、骨折線が外側&頭側皮質骨に伸展したことが確認されました。その後も保存性療法が継続され、骨折から七ヶ月目のレントゲン再検査では骨折線が殆ど見えないほどまで治癒しており、患馬は骨折後の十四ヶ月目から運動復帰を果たしたものの、軽度の跛行は継続的に見られ、また、駈歩時に頻繁につまずくという稟告があったことが報告しています。

このため、成馬の橈骨における非変位性の不完全骨折では、保存性療法によって比較的に良好な骨折治癒が見られ、中程度~良好な予後および運動復帰が期待できることが示唆されました。また、三頭の症例のうち二頭では、内側上腕部に皮膚損傷(Skin wound on medial antebrachial region)が認められましたが、開放骨折(Open fracture)には至っておらず、いずれも局所性および全身性の抗生物質療法(Local/Systemic anti-microbial therapy)によって、細菌感染(Bacterial infection)や骨髄炎(Osteomyelitis)を続発することなく、良好な骨折治癒が達成されたことが報告されています。

この研究では、三頭の症例のうち一頭は、馬房休養の期間中に不完全骨折の悪化を示したものの、完全骨折(Complete fracture)には至っておらず、その後も保存性療法のみの治療で、骨折治癒が達成されました。しかし、症例によっては、不完全骨折から完全骨折、開放骨折、変位性骨折(Displaced fracture)などへと悪化する可能性もあると推測されるため、馬房上にわたしたワイヤーと無口をつないだり、馬房内での吊起帯(Sling)の使用によって馬の寝起きを制限することで、骨折病態の悪化を予防できる場合もありうると考えられました。

この研究では、一頭は蹴傷が原因であると考えられましたが、残りの二頭には蹴傷の病歴はなく、その病因としては、微細損傷の蓄積(Accumulation of micro-damage)による疲労性骨折(Fatigue fracture)が関与した可能性があると考察されています。

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馬の病気:橈骨骨折

馬の文献:橈骨骨折(Auer et al. 1987)

「成馬における橈骨骨折の治療:15臨床症例の評価」
Auer JA, Watkins JP. Treatment of radial fractures in adult horses: an analysis of 15 clinical cases. Equine Vet J. 1987; 19(2): 103-110.

この症例論文では、橈骨完全骨折(Complete radial fracture)を呈した成馬(体重300kg以上)の15症例における治療成績が報告されています。このうち、四頭は経済的な理由および予後不良(Poor prognosis)が予測されるという理由から安楽死(Euthanasia)が選択され、残りの十一頭のうち二頭はギプス装着による保存性療法(Conservative treatment)、九頭はプレート固定術(Plate fixation)による外科的療法が選択されました。

結果としては、治療が試みられた十一頭の患馬のうち、保存性療法が選択された二頭は、細菌感染(Bacterial infection)に伴う骨髄炎(Osteomyelitis)から安楽死となりました。そして、内固定術(Internal fixation)が応用された九頭のうち、生存したのは二頭のみで、六頭は骨折整復部の崩壊(Breakdown of fixation)、残りの一頭は対側肢の負重性蹄葉炎(Support laminitis on contralateral limb)によって安楽死となりました。このため、成馬における橈骨の完全骨折では、保存性療法による骨折治癒は困難で(生存率:0%)、外科的療法によっても予後不良となる場合が多い(生存率:22%)ことが示唆されました。

この研究では、プレート固定術が応用された九頭のうち、海綿骨移植(Cancellous bone graft)が行われなかったのは二頭、プレートが橈骨全長よりも短かったのは三頭で、これらの馬はいずれも生存していませんでした。また、術後にギプスまたは副木固定(Cast/Splint fixation)が併用された二頭(残りの七頭はバンテージのみ)も、いずれも生存していませんでした。このため、成馬の橈骨完全骨折における外科的療法においては、橈骨全長にわたるプレートを用いること、橈骨の幅全体に達する5.5mm螺子を用いること、海綿骨移植を併用すること、などが推奨されています。また、術後の外固定術の併用は、必ずしも治療効果の有意な改善にはつながらないと考えられるものの、力学的骨端螺子プレート(Dynamic condylar screw plate)を用いての整復強度の向上によって、より良好な骨折治癒が期待できるケースもある、と考察されています。

この研究では、15頭のうち五頭が開放骨折(Open fracture)でしたが、このうち一頭は、内固定術によって良好な骨折治癒を見せ、生存および騎乗使役への復帰が達成されました(上写真)。この患馬は、骨折発症から僅か四時間後に来院しており、また、輸送時の応急処置によって、骨折部位の病態悪化が予防されたことが報告されており、これらの迅速かつ適切な初期治療が奏功したと推測されます。また、この論文の発表時には一般的でなかった、抗生物質の局所灌流(Regional limb perfusion)、抗生物質含有PMMAの充填、および、最小侵襲性のプレート固定術(Minimally-invasive plate fixation)などによって、細菌感染の治療および予防が期待できる症例もあると考えられました。

この研究では、プレート固定術が応用された九頭のうち、三枚もしくは四枚のプレートが使用された二頭(残りの七頭は二枚のプレート)においても、骨折整復箇所の崩壊が起きており(上写真)、プレートを二枚以上に増やすことで、骨折治癒を改善できるというデータは示されていません。このため、成馬の橈骨完全骨折における内固定術では、一枚目のプレートをテンションバンドとして作用できる橈骨の頭側皮質骨面(Cranial cortex)に設置し、二枚目のプレートは出来る限り橈骨の外側皮質骨面(Lateral cortex)に設置する(=プレートを筋層で覆うことが出来るため)、という術式が推奨されています。一方、この論文の報告時には一般的でなかった、ロッキング・コンプレッション・プレート(Locking compression plate)を用いた術式によって、ダイナミック・コンプレッション・プレート(Dynamic compression plate)を用いた術式に比べて、有意に良好な治療成績が示されると推測されます。

この研究では、プレート固定術が応用された九頭のうち二頭は、麻酔覚醒時(Anesthesia recovery)に再骨折(re-fracture)または整復部崩壊を起こして、安楽死となっていました。このため、馬の骨折整復術において、適切な麻酔覚醒補助を用いることの重要性を再確認するデータが示されたと言えます。

この研究では、生存した二頭の患馬では、一頭は二枚のプレートのうち一枚(頭側プレート)だけが術後の八ヶ月目に除去され、あとの一頭ではプレート除去は行われませんでした。しかし、いずれの患馬も、残存したプレートに起因すると思われる疼痛や跛行は認められなかったことから、成馬の橈骨完全骨折に対する内固定術においては、プレート除去は必ずしも要しない、という考察がなされています。

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