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馬の文献:手根骨盤状骨折(Stephens et al. 1988)

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「スタンダードブレッドおよびサラブレッドにおける第三手根骨の盤状骨折:1977~1984年の155症例」
Stephens PR, Richardson DW, Spencer PA. Slab fractures of the third carpal bone in standardbreds and thoroughbreds: 155 cases (1977-1984). J Am Vet Med Assoc. 1988; 193(3): 353-358.

この症例論文では、馬の手根骨盤状骨折(Carpal slab fracture)に対する外科的療法の治療効果を評価するため、1977~1984年にかけて、第三手根骨(Third carpal bone)の盤状骨折を呈した155頭のスタンダードブレッドおよびサラブレッドの、医療記録(Medical records)の解析が行われました。治療方針としては、休養のみ、または、関節鏡手術(Arthroscopy)を介しての螺子固定術(Lag screw fixation)または骨片除去(Fragment removal)が応用されました。

結果としては、経過追跡(Follow-up)ができたサラブレッド症例のうち、レース復帰した馬の割合は、螺子固定された馬では68%、骨片摘出された馬では68%、休養のみの馬では50%でしたが、良好な競走成績(十回以上の出走または2000ドル以上の賞金獲得)を収めた馬の割合は、螺子固定された馬では32%、骨片摘出された馬では37%、休養のみの馬では17%であったことが示されました。一方、経過追跡ができたスタンダードブレッド症例のうち、レース復帰した馬の割合は、螺子固定された馬では79%、骨片摘出された馬では85%、休養のみの馬では67%でしたが、良好な競走成績を収めた馬の割合は、螺子固定された馬では58%、骨片摘出された馬では54%、休養のみの馬では60%であったことが示されました。このため、馬の第三手根骨の盤状骨折では、サラブレッドに比べてスタンダードブレッドのほうが予後が良い傾向が見られ、特にサラブレッドの症例においては、外科的療法によって予後改善が期待できることが示唆されました。

この研究では、スタンダードブレッドおよびサラブレッドの両症例郡において、骨片のサイズが大きいほど螺子固定術が選択される場合が多く、骨折片の変位(Displacement)が大きいほど骨片除去が選択される場合が多い傾向が認められました。つまり、骨折病態の違いに応じて治療方針の偏向(Bias)が生じていたため、上述の競走成績のみからどちらの術式がより高い治療効果を示すのかを評価するのは難しいと考察されています。しかし、一般論としては、できる限り骨片を螺子固定して、関節面の連続性(Continuity of articular surface)および関節安定性(Joint stability)の維持に努めることで、術後の変性関節疾患(Degenerative joint disease)の危険性を減少でき、予後の改善につながることが予測されます。しかし、その反面、骨折部周辺の細片化(Comminution)や軟骨欠損(Cartilage loss)に起因して、関節面平坦化(Articular re-surfacing)が困難なケースでは、むしろ骨片除去したほうが関節軟骨の治癒を促進(Facilitation of articular cartilage healing)できる場合もある、という提唱もなされています。

この研究では、骨折前と治療後の両方にレース出走していた馬の獲得賞金(一レース当たり)を見ると、サラブレッド症例では、骨折前の$1200/raceから治療後には$478/raceに減少しており、スタンダードブレッド症例でも、骨折前の$855/raceから治療後には$674/raceに減少していました。しかし、螺子固定術が応用されたスタンダードブレッド症例に限って言えば、骨折前の$335/raceから治療後には$401/raceに増加していました。しかし、これらのデータの背景として、調教師が骨折病歴を考慮して低いレベル(=獲得賞金の低い)のレースに転戦したり、もともと競走能力の高い馬が繁殖馬(Breeding horse)として早期に引退した場合(=治療後の出走を意図的に控えた場合)には、骨折前に比べて治療後の平均獲得賞金のほうが低くなりやすいという偏向が生じた可能性は否定できないため、これらのデータが必ずしも外科的療法の治療効果を直接的に反映するものではない、という警鐘が鳴らされています。そして、これを裏付けるデータとして、牝馬の症例におけるレース復帰率(46%)は、雄馬の症例におけるレース復帰率(90%)よりも顕著に低かったことが示されました。

この研究では、87%の盤状骨折が第三手根骨の内背側部(Dorso-medial aspect)に発生しており、また、左右の前肢における骨折発生の比率を見ると、サラブレッド症例では、右前肢(59%)のほうが左前肢(41%)よりもやや高い発症率(Incidence)を示しましたが、スタンダードブレッド症例では右前肢(48%)と左前肢(52%)の発症率に顕著な差は認められませんでした。このようにサラブレッドにおいて、左右前肢の手根骨骨折の発症率が非対称性(Asymmetry)を示す要因としては、馬の手根骨骨折はレース終盤の筋疲労(Muscle fatigue)によって手根関節が過伸展(Hyper-extension of carpus)することで起こると考えられるため、左回りでレースする場合が多いサラブレッド競走馬では、最終直線で馬が左手前から右手前の襲歩に踏歩変換することで、レース終盤における右前肢の内側部への圧迫負荷(Compressive force)が増大して、左前肢よりも右前肢のほうが骨折しやすかったことが挙げられています。

この研究では、手術もしくは治療開始からレース復帰までの休養期間を見ると、サラブレッド症例においては、螺子固定された馬では10.7ヶ月、骨片摘出された馬では9.1ヶ月、休養のみの馬では11.5ヶ月であったことが示されました。一方、スタンダードブレッド症例においては、螺子固定された馬では11.0ヶ月、骨片摘出された馬では14.1ヶ月、休養のみの馬では9.6ヶ月であったことが報告されています。しかし、上述のように、これらの治療方針の決定に際しては、骨折片の大きさ(Fragment size)や骨折病態の重篤度(Fracture severity)が関与しているため、このデータのみから、螺子固定術または骨片除去のどちらが、より効果的な休養期間の短縮につながるのかを評価するのは難しい、と考察されています。

この研究では、サラブレッド症例のうち、三歳馬が60%を占めていたのに対して、スタンダードブレッド症例では、二歳馬が33%と最も多くを占めていました。一方、牝馬が占める割合は、サラブレッド症例では54%にのぼったのに対して、スタンダードブレッド症例では30%にとどまっていました。これらのデータは、サラブレッド競走馬において、牝馬よりも雄馬のほうが、より長期間にわたってレース出走される傾向にあったことを反映する、という考察がなされています。

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