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馬の文献:手根骨破片骨折(Getman et al. 2006)

「競走馬の掌側手根骨軟骨片:1994~2004年の31症例」
Getman LM, Southwood LL, Richardson DW. Palmar carpal osteochondral fragments in racehorses: 31 cases (1994-2004). J Am Vet Med Assoc. 2006; 228(10): 1551-1558.

この症例論文では、掌側手根骨軟骨片(Palmar carpal osteochondral fragment)を呈した31頭の患馬における、症状、診断法、および関節鏡手術(Arthroscopy)による治療成績が報告されています。このうち、関節鏡手術によって骨片摘出(Fragment removal)が行われた馬は13頭で、骨片が摘出されなかった馬は18頭でした。

結果としては、31頭の患馬のうち、レース復帰を果たしたのは52%、レース復帰して五回以上の出走を果たしたのは48%、レース復帰して賞金を獲得したのは32%であったことが示されました。また、関節鏡手術を介して骨片が摘出された馬は、骨片が摘出されなかった馬に比べて、治療後の獲得賞金が有意に高かったことが報告されています。しかし、骨折前と治療後の両方に出走した馬のデータを見ると、治療後のほうが骨折前に比べて、競走能力指数(Performance index)がマイナス2.8となっていました。このため、競走馬の掌側手根骨軟骨片では、その予後は中程度~不良で、レース復帰できなかったり、競走能力の低下を招く症例の割合も比較的に高いことが示されましたが、関節鏡手術を介しての骨片摘出によって、ある程度は予後の改善につながることが示唆されました。

この研究では、他の文献に基づいて(McIlwraith et al. JAVMA. 1987;191:531)、骨折周辺部位の関節軟骨の損傷度合いを、定量的に評価(Quantitative analysis)するため、グレード1:僅かな関節軟骨の細繊維化および骨折縁から5mm以内の破片化、グレード2:骨折縁から5mm以上および関節面の30%以下の関節軟骨変性、グレード3:関節面の50%に達する関節軟骨変性、グレード4:骨折による重度の骨損失、という四段階の病変点数化(Lesion grading)が応用されました。そして、中程度~重度(グレード3&4)の軟骨損傷を示した馬は48%にのぼり、通常の背側破片骨折において、中程度~重度の軟骨損傷を示した馬の割合(26%)よりも顕著に高い傾向を示しました。このため、競走馬の掌側手根骨軟骨片において、外科的治療のあとの予後が悪いのは、より重篤な関節軟骨の損傷を併発する危険性が高いためである、という考察がなされており、関節鏡手術の際には、骨軟骨片を摘出することばかりに気を取られることなく、骨折部周辺の軟骨損傷度合いを慎重かつ定量的に評価して、より信頼性の高い予後判定(Prognostication)に努めることが重要であると考えられました。

この研究では、31頭の患馬のうち、サラブレッド競走馬が84%を占めており、また、右前肢(65%)のほうが左前肢(35%)よりも、高い発症率を示しました。骨軟骨片の発生箇所を見ると、中間手根関節(Mid-carpal joint)の掌外側部位(Palmar lateral aspect)が62%を占め、次いで、中間手根関節の掌内側部位(Palmar medial aspect)が19%、前腕手根関節(Antebrachi-carpal joint)の掌側部位が19%となってしました。

この研究では、去勢馬(Gelding)の症例のほうが、牝馬(Mare)や種牡馬(Stallion)の症例に比べて、レース復帰後の出走回数、およびレース復帰後に五回以上出走する割合が、有意に高かったことが報告されています。これは、繁殖馬として飼養するという選択肢のある牝馬や種牡馬では、馬主や調教師が骨折病歴を考慮して、早期に引退させるケースが多かったという偏向(Bias)が働いたためと推測されています。

この研究では、掌側手根骨軟骨片のみを呈した症例は23%でしたが、それ以外の患馬を見ると、原発疾患の種類および発生箇所は、遠位背側橈側手根骨(Distodorsal aspect of radial carpal bone)の破片骨折(Chip fracture)が58%と最も多く、次いで、背側第三手根骨(Dorsal aspect of third carpal bone)の破片骨折が26%、第三手根骨の盤状骨折(Slab fracture)が19%などとなっていました。このうち、原発疾患が第三手根骨盤状骨折であった場合には、レース復帰を果たした馬は一頭もいなかったことが報告されています。過去の文献では(Martin et al. JAVMA. 1988;193:107 & Stephens et al. JAVMA. 1988;193:353)、第三手根骨の盤状骨折におけるレース復帰率は七割~八割であるにも関わらず、今回の研究において、第三手根骨の盤状骨折を呈した馬のレース復帰率が0%であった要因としては、これらの症例はすべて牝馬もしくは種牡馬であったため、無理をしてレース復帰を目指すよりも、繁殖馬として引退するという選択が下されたことが影響している、という考察がなされています。

この研究では、三個以上の掌側手根骨軟骨片が見られた症例は58%にのぼり、過半数(52%)の骨軟骨片は3mm未満のサイズであったことが示されました。また、骨軟骨片の数とサイズには負の相関(Negative correlation)が認められ、つまり、骨軟骨片の数が多いほどサイズは小さい傾向にありました。このうち、骨軟骨片が三個以上であった馬は、骨軟骨片が一個であった馬に比べて、治療後の獲得賞金および出走数が有意に低かったことが示され、骨軟骨片の数が多いほど予後が悪化することが示唆されました。さらに、骨軟骨片が3mm未満であった馬は、3mm以上であった馬に比べて、治療後の五回以上出走できる確率や、治療後の獲得賞金などが、有意に低かったことが報告されています。このため、一個~二個のサイズの大きい骨片がある馬に比べて、三個以上のサイズの小さい骨片がある馬のほうが、細かい破片が関節内の他の箇所に迷入(Migration of small fragment)したり、より慢性的な病態である可能性が高い(=もともとはサイズの大きかった骨片が持続的な運動負荷で細かい破片に分断されたため?)、などの理由から、外科的療法のあとの予後が有意に悪くなった、という考察がなされています。

この研究では、31頭の患馬のうち、関節鏡下で内掌側手根骨間靭帯(Medial palmar intercarpal ligament)の評価が行われたのは16頭のみで、このうち、81%において、この靭帯の損傷が認められました。そして、内掌側手根骨間靭帯を損傷していた馬では、損傷していなかった馬に比べて、レース復帰率が低い傾向にあり、レース復帰して賞金を獲得する確率や、治療後の獲得賞金額が、有意に低かったことが報告されています。このため、競走馬の掌側手根骨軟骨片に対する関節鏡手術では、骨片の発生箇所だけに気を取られることなく、内掌側手根骨間靭帯を含む、関節内の支持結合組織(Supporting connective tissue)の異常を慎重に検査することが重要である、という警鐘が鳴らされています。

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