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馬の文献:球節破片骨折(Vanderperren et al. 2009)

「馬の背側球節骨片形成の診断におけるレントゲン検査と超音波検査の比較」
Vanderperren K, Martens AM, Declercq J, Duchateau L, Saunders JH. Comparison of ultrasonography versus radiography for the diagnosis of dorsal fragmentation of the metacarpophalangeal or metatarsophalangeal joint in horses. J Am Vet Med Assoc. 2009; 235(1): 70-75.

この研究論文では、馬の球節(Meta-carpo/tarso-phalangeal joint: Fetlock joint)の背側骨片形成(Dorsal fragmentation)に対する有用な診断法を評価するため、背側球節骨片形成を呈した36頭の患馬(48関節)において、関節鏡手術(Arthroscopy)での所見をゴールドスタンダードとして、レントゲン検査(Radiography)と超音波検査(Ultrasonography)の比較が行われました。

結果としては、関節鏡手術において特定された骨片の数および位置のうち、術前レントゲン検査で探知できたのは44%(21/48関節)にとどまりました。一方、術前超音波検査で探知できたのは96%(46/48関節)であったことが報告されており、レントゲン検査に比べて超音波検査のほうが、有意に診断能が高いことが示されました。また、三つの関節においては、レントゲン検査では一つの骨片しか見つからなかったのに、超音波検査では複数の骨片が発見されました。このため、馬の背側球節骨片形成の診断に際しては、レントゲン検査と超音波検査を併用することで、より感度(Sensitivity)の高い診断が可能であることが示唆されました。

この研究では、七つの関節において、レントゲン像上での骨片形成の確定診断(Definitive diagnosis)が困難でしたが、超音波検査によって骨片が起きている(四つの関節)または起きていない(三つの関節)という診断が下され、関節鏡下においてこれらの診断はいずれも正しかったことが確認されました。このため、馬の背側球節骨片形成のレントゲン検査において、骨片かどうか判定しにくい小さな陰影が認められた場合には、超音波による再検査を行うことで、より信頼性(Reliability)および特異性(Specificity)の高い診断が可能であることが示唆されました。

一般的に、馬の球節骨片形成は、破片骨折(Chip fracture)または骨軟骨症(Osteochondrosis)に起因して起こりますが、このうち骨軟骨症によって生じる骨片では、軟骨内骨化の不全(Failure of endochondral ossification)のため、骨性中心(Bony center)の組成が不十分であることも考えられます。この場合には、X線透過性が残存してしまいレントゲン像には骨片が写りにくくなりますが、硬度の高い軟骨組織における反響性は存在するため、超音波像には骨片が写りやすくなります。このため、同一馬の他の関節(足根関節や膝関節など)に骨軟骨症が認められた場合など、球節にも骨軟骨片が生じている危険が高いと予測される症例に対しては、積極的に超音波検査を応用するべきであると考えられました。

この研究では、術前のレントゲン検査および超音波検査によって、骨片形成が生じている位置の特定が試みられ、関節鏡下での所見に基づくと、レントゲン検査に比べて超音波検査のほうが、有意に正確に骨片の位置を特定できることが示唆されました。これは、レントゲン検査において、側方撮影像(Lateral view)で発見された骨片のサイズが小さかった場合には、斜方撮影像(Oblique view: DLPMO/DMPLO)では他の骨と重複してしまい、骨片が内外側のいずれに位置しているかを見極めにくかったためと推測されています。このような場合には、術前の超音波検査によって骨片の位置を推定することで、手術時の関節鏡用および器具用ポータルの設置箇所を用意に判断でき、外科侵襲を最小限に抑え、手術時間の短縮にもつながると考察されています。

この研究では、生食注入によって関節包を膨満(Joint capsule distension)させた状態で超音波検査を実施することで、より正確に骨片の位置を判定できることが示されました。この手法は、特に、関節鏡手術の適応を決定する際に重要な、関節内骨片(Intra-articular fragment)と関節周囲骨片(Peri-articular fragment)(=骨片が関節包組織内に埋没している場合)との鑑別診断(Differential diagnosis)において有用であると考察されています。この際には、超音波像の鮮明さを落とさないため、生食と一緒に細かい空気の泡を注射していまわないように、十分に注意することが大切であると考えられました。

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