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馬の文献:舟状骨症候群(Gutierrez-Nibeyro et al. 2010)

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「馬の蹄部疼痛に対する内科的療法の治療成績:56症例」
Gutierrez-Nibeyro SD, White Ii NA, Werpy NM. Outcome of medical treatment for horses with foot pain: 56 cases. Equine Vet J. 2010; 42(8): 680-685.

この研究論文では、馬の蹄部疼痛(Foot pain)に対する有効な内科的療法(Medical treatment)を検討するため、2005~2007年にかけて、掌側指神経麻酔(Palmar digital nerve block)での跛行改善(Lameness improvement)によって蹄部疼痛(Foot pain)が限局化(Localization)されたものの、レントゲン検査(Radiography)では確定診断(Definitive diagnosis)が下せず、MRI検査が実施された56頭の患馬における、装蹄療法(Therapeutic shoeing)およびコルチコステロイド注射(Corticosteroid injection)(蹄関節、舟嚢、腱鞘)などの内科的療法による治療成績、および、MRI所見と予後との相関が評価されました。この研究の予後解釈(Interpretation of prognosis)では、発症前と同レベルまでの運動復帰を果たし、三ヶ月以上にわたってコルチコステロイドの再注射を要することなく無跛行であった場合を、「治療成功」と定義しました。

結果としては、56頭の患馬のうち、治療成功を示したのは39%(22/56頭)の症例に過ぎませんでした。そして、MRI異常所見のタイプ別に見た治療成功率は、深屈腱損傷(Deep digital flexor tendinopathy)を呈した馬では22%、舟状骨(Navicular bone)の屈腱面(Flexor cortex)における全層糜爛(Full thickness erosion)を呈した馬では20%、舟嚢内の滑膜増生(Synovium proliferation)と癒着(Adhesion)を呈した馬では14%となっており、これらの病巣を有した場合には、予後が有意に悪化したことが示されました。また、多因子ロジスティック回帰解析(Multi-variable logistic regression analysis)の結果では、深屈腱損傷を発症していた馬では、発症していなかった馬に比べて、治療が不成功となる確率が五倍以上も高かったことが報告されています(オッズ比:5.3)。このため、馬の蹄部疼痛に対する内科的療法では、予後不良(Poor prognosis)を呈して、十分な騎乗使役への復帰を達成できない症例が多いことが示唆され、初診時のMRI検査による原発病巣(Primary lesion)の特定が、有用な予後判定の指標(Prognostic parameters)になると考えられました。

この研究では、患馬の年齢や品種、騎乗使役の種類、初診時の跛行グレードや跛行病歴の長さ、片側または両側性跛行(Unilateral or bilateral lameness)の違いなどは、内科的療法での予後とは有意には相関していませんでした(=治療の成功馬と非成功馬のあいだで有意差は無し)。このため、蹄部疼痛の罹患馬では、臨床症状や患馬の特性のみから予後判定を下すのは難しいと推測され、MRI検査などの精密な画像診断(Precise diagnostic imaging)によって、病態特定に努めることの重要性が再確認されたと言えるかもしれません。

この研究では、MRI検査で発見された病巣に到達するようにコルチコステロイド注射を行う治療指針が取られており、56頭の患馬のうち、蹄関節注射(Coffin joint injection)が行われた馬は91%、舟嚢注射(Navicular bursa injection)が行われた馬は64%、腱鞘注射(Tendon sheath injection)が行われた馬は39%であったことが示されました。しかし、コルチコステロイドの注射箇所の決定は、臨床医の判断に任されており、注射された薬剤濃度、注射頻度、注射回数(Dosage, frequency, or number of injections)などもまちまちでした。このため、どの治療法が最も奏功したのかを統計的に評価することはできず、注射方針の選択に関する偏向(Bias)が働いた可能性は否定できない(抗炎症剤が奏功しそうな軽度病巣のほうが、コルチコステロイド注射が選択される頻度が高かった?)と考えられました。

この研究において、蹄部疼痛に対する内科的療法が奏功しにくかった要因としては、かなり多くの症例において(44%の患馬)、舟状骨、舟嚢、深屈腱の三箇所の病巣を併発していたことが挙げられており、他の文献でも、MRI検査によって複数の病変が発見された場合には、予後不良になる確率が95%に及ぶという知見も示されています(Dyson et al. EVJ. 2005;37:113)。一方、片側性跛行と両側性跛行の馬のあいだで、予後に有意差が認められなかった要因としては、他の文献で示されているように、例え跛行が一方の前肢のみの症例においても、舟状骨や周辺組織の病巣は両前肢に発症している場合が多いことが挙げられています(Murray et al. Vet Radiol US. 2006;47:17)。さらに、跛行病歴の長さが予後と相関しなかった要因としては、舟状骨や周辺組織の病巣は不症候性に経過(Asymptomatic elapse)する場合があり、跛行を呈した時点で既に進行性病変(Progressive lesions)に至っている症例が多いことが挙げられています(Dyson et al. Clin Tech Eq Pract. 2007;6:46, Sherlock et al. EVJ. 2008;40:684)。

この研究では、深屈腱損傷を呈した場合には予後が悪いという傾向が示され、この知見は、他の文献のデータとも合致しており(Schramme et al. EVE. 2008;20:389)、このような舟嚢内での深屈腱病巣に対しては、抗炎症剤の舟嚢注射のみでは治療効果が十分ではない可能性が指摘されています。このような深屈腱損傷に対する他の治療法としては、CT検査を介しての針穿刺(Computed tomography-guided needle insertion)による、間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells)や多血小板血漿(Platelet rich plasma)の病巣内注射(Intra-lesional injection)や、舟嚢の内視鏡手術(Navicular bursoscopy)を介しての、線維化部の病巣清掃術(Fibrillation debridement)などが試みられていますが、いずれも長期的な治療効果(Long-term treatment effect)は必ずしも明らかではありません(Puchalski et al. Proc AAEP. 2005;51:389, Maher et al. Proc ACVS. 2007:92, Smith et al. EVJ. 2007;39:18)。

この研究の限界点(Limitation)としては、臨床症例(Clinical cases)を対象とした回帰的解析(Retrospective analysis)であるため、無作為選択(Random selection)した対照郡(Control group)(=跛行馬を敢えて無治療処置とするグループ)を設定することが困難であったことや、長期経過(Long-term follow-up)の判定には、電話調査(Telephone survey)による情報収集が選択されたこと(=治療成功の判断が曖昧であったケースもありうる)、などが挙げられています。このため、今後の研究においては、客観的かつ定量的な跛行検査(Objective and quantitative lameness assessment)を介しての、無作為&偽薬対照&二重盲検の前向き臨床試験(Randomized, placebo-controlled, double-blinded, prospective clinical trial)を行うことが望ましいと考察されています。

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