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馬の文献:舟状骨症候群(Maher et al. 2008)

「プルスルー手法による掌側指神経切断術:1998~2004年の41症例」
Maher O, Davis DM, Drake C, Myhre GD, Labbe KM, Han JH, Lejeune SS. Pull-through technique for palmar digital neurectomy: forty-one horses (1998-2004). Vet Surg. 2008; 37(1): 87-93.

この研究論文では、馬の舟状骨症候群(Navicular syndrome)における疼痛管理(Pain management)のため行われる、外科的療法の有用な術式を検討するため、1997~2001年にかけて、掌側指神経麻酔(Palmar digital nerve block)での“70%以上”の跛行改善(Lameness improvement)、およびレントゲン検査(Radiography)での異常所見によって、舟状骨症候群が推定診断(Presumptive diagnosis)された41頭の患馬に対して、プルスルー手法(Pull-through technique)による掌側指神経切断術(Palmar digital neurectomy)が行われました。

この研究の術式では、一つ目の皮膚切開創(Skin incision)を、近位掌側繋部(Proximo-palmar pastern)の麦角靭帯(Ligament of the ergot: Extensor branch of suspensory ligament)のすぐ掌側に設け、次に、二つ目の皮膚切開創を、蹄軟骨の直ぐ近位側(Just proximal to the collateral cartilage of distal phalanx)で屈腱のすぐ遠軸側(Immediately abaxial to the flexor tendons)に設けることで、掌側指神経へと外科的アプローチされました。そして、それぞれの切開創から掌側指神経を引き出し、上下に引っ張り合って同じ神経を操作していることを確認してから、まず遠位側の神経を切断し、それを近位側の切開創から抜き取るように引っ張り出し(“Pull-through”)、その後、この神経に鉗子で緊張を掛けた状態で切断することで、神経の断端が近位側へ引き込まれる手法(ギロチン手法:Guillotine technique)が応用されました。

結果としては、経過追跡(Follow-up)ができた患馬のうち、跛行再発(Lameness recurrence)することなく騎乗されている期間は、平均値では4.14年、中央値(Median)では五年、信頼区間(Confidence interval)の最下値は三年であったことが示されました。また、これらの患馬のデータの生存解析(Survival analysis)では、術後の症例が跛行再発(Lameness recurrence)することなく騎乗されている確率は、術後の一年目では88%、二年目では71%、三年目では57%、四年目では52%、五年目以降では46%であったことが示されました。そして、術後合併症(Post-operative complication)が認められたのは七頭(17%)でしたが(主に切開創の腫脹や排液)、有痛性神経腫形成(Painful neuroma formation)を起こしたのは二頭(5%)、致死的な合併症(Fatal complication)を呈したのは三頭(7%)のみであったことが報告されています。このため、舟状骨症候群の罹患馬に対しては、プルスルー手法を介しての掌側指神経切断術によって、術後合併症の危険性を抑えながら、良好な疼痛減退効果が期待できることが示唆されました。

一般的に、舟状骨症候群による慢性蹄踵疼痛(Chronic palmar heel pain)の“治療”のためには、掌側指神経を切断して疼痛を緩和することで、騎乗使役および競技参加を継続する管理指針が選択されることがあります。しかし、この際に起こりうる合併症としては、有痛性神経腫形成や軸索再成長(Axonal regrowth)などが報告されています。このため、掌側指神経切断術の手法としては、化学療法(Chemotherapy)(Cummings et al. EVJ. 1988;20:451)、神経断端の被包(Epineural capping)(Adams et al. Proc AAEP. 1974;20:47)、凍結手術(Cryosurgery)(Tate et al. JAVMA. 1980;177:423)、レーザー神経切断術(Laser neurectomy)(Dabareiner et al. Proc AAEP. 1997;43:231)、ステンレス結紮(Stainless steel ligatures)(Bramlage et al. Vet Surg. 1982;11:23)、神経周囲へのヒアルロン酸注射(Perineural administration of hyaluronic acid)(Murray et al. AJVR. 1994;55:1484)、骨髄内神経繋留(Intra-medullary nerve anchoring)(Lose et al. Vet Med Small Anim Clin. 1976;3:317)、ギロチン手法(Jackman et al. Vet Surg. 1993;22:285, Matthews et al. Aust Vet J. 2003;81:402)、などが試みられています。今回の研究で試験されたプルスルー手法では、8~10cmという非常に長い神経組織を切除できるという利点が挙げられており、他の動物種における過去の文献では、最長で3.5cmの神経組織の欠損箇所が再生可能である、という知見も示されています(McMinn et al. NY Academic Press. 1969:451)。

この研究では、掌側指神経切断術の後に、致死的な合併症を呈した三頭では、感染性蹄骨炎(Septic pedal osteitis)、深屈腱断裂(Rupture of deep digital flexor tendon)、舟状骨の骨折(Navicular bone fracture)を続発していました。このため、術前のレントゲン検査において、屈腱面病変(Flexor cortex lesion)(=深屈腱断裂の危険が大きい)や重度の舟状骨変性(Severe degenerative changes)(=舟状骨骨折の危険が大きい)が認められた症例に対しては、掌側指神経切断術は禁忌(Contraindication)であると提唱されています。また、痛覚の減少した蹄底部への穿孔性異物(Penetrating foreign body)を頻繁にチェックすることで、重篤な蹄底膿瘍(Marked subsolar abscess)や蹄骨感染(Bacterial infection of distal phalanx)を予防することが重要であると考察されています。

この研究では、症例選択に際して、保存性療法(Conservative treatment)に不応性(Refractory)であった症例に対してのみ、掌側指神経切断術の実施が選択されました。このうち、術前に試みられた保存性療法としては、馬房休養(Stall rest)が100%(41/41頭)、装蹄療法(Therapeutic shoeing)が98%(40/41頭)、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の長期的投与(Prolonged administration)が93%(38/41頭)、トリアムシノロンの蹄関節注射(Coffin joint injection)が85%(35/41頭)などとなっていました。一方、術前にコルチコステロイドの舟嚢注射(Navicular bursa injection)が試みられたのは三頭にとどまり、この背景には、舟嚢注射された症例の約一割(2/25頭)において深屈腱断裂が続発した、という他の文献の知見から(Dabareiner et al. JAVMA. 2003;223:1469)、コルチコステロイドの舟嚢注射を受けた馬に対しては、掌側指神経切断術が回避される傾向にあったことが挙げられています。

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