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馬の文献:舟状骨症候群(Dyson et al. 2005)

「蹄部疼痛に起因する跛行:199症例のMRI検査結果と治療成績」
Dyson SJ, Murray R, Schramme MC. Lameness associated with foot pain: results of magnetic resonance imaging in 199 horses (January 2001--December 2003) and response to treatment. Equine Vet J. 2005; 37(2): 113-121.

この研究論文では、馬の舟状骨症候群(Navicular syndrome)の診断における、MRI検査(Magnetic resonance imaging)の有用性を評価するため、2001~2003年にかけて、掌側指神経麻酔(Palmar digital nerve block)による跛行改善(Lameness improvement)によって掌側蹄踵疼痛(Palmar heel pain)が限局化(Localization)されたものの、レントゲン検査(Radiography)では異常所見が見られず、MRI検査による診断が試みられた199頭の患馬における、MRI像上での異常所見の解析、および装蹄療法(Therapeutic shoeing)やコルチコステロイドの舟嚢注射&蹄関節注射(Corticosteroid injection into navicular bursa or/and distal inter-phalangeal joint)に対する、治療成績の評価が行われました。

この研究では、MRI像上での異常所見としては、蹄部での深屈腱炎(Deep digital flexor tendinitis within foot)が59%と最も多く、このうち約三分の一は、深屈腱と舟状骨(Navicular bone)の両方に病変が認められました。その次に多かった異常所見としては、蹄関節の側副靭帯(Collateral ligament of coffin joint)の損傷が31%の馬に認められ、このうち約半数は、他の蹄部組織の異常を併発していました。また、その他の異常所見としては、末節骨(Distal phalanx)、中節骨(Middle phalanx)、蹄関節、Impar靭帯、直鎖種子骨遠位靭帯(Straight distal sesamoidean ligament)などの炎症や損傷が含まれ、少数の症例では、舟状骨の細片化(Fragmentation)、末節骨近位部や中節骨遠位部における骨嚢胞様病変(Bone cystic-like lesion)、末節骨の掌側突起の石灰化(Mineralization of a palmar process of the distal phalanx)、蹄底の穿孔性外傷(Penetrating wound)の瘢痕、蹄葉炎(Laminitis)などが見られました。このため、蹄踵疼痛の診断が下された患馬が、レントゲン検査に陰性であった場合には、MRI検査によって異常所見が発見できる場合が多いことが示唆されました。

この研究では、末節骨および中節骨の損傷を呈した患馬では、71%が良好な予後(=跛行再発せず完全な競技使役に復帰した場合:Returned to full athletic function without recurrent lameness)を示しました。しかし、蹄部での深屈腱炎を呈した患馬では、良好な予後を示したのは28%、蹄関節の側副靭帯の損傷を呈した患馬では、良好な予後を示したのは29%に過ぎなかったことが報告されています。そして、舟状骨に原発疾患があったり、深屈腱と舟状骨の両方の病変を呈した患馬では、良好な予後を示した症例はなく、その殆どが難治性跛行(Persistent lameness)を続発したことが示されました。このため、診断麻酔によって蹄踵部に疼痛が限局化された症例においては、MRI検査での異常所見のタイプが、予後判定(Prognostication)の有用な指標になったり、治療方針の決定に有用である事が示唆されました。

この研究では、MRI検査で異常が認められた舟状骨症候群の罹患馬への治療としては、装蹄療法、コルチコステロイドの舟嚢注射および蹄関節注射(ヒアルロン酸が混合された場合もあり)、掌側指神経切断術(Palmar digital neurectomy)、衝撃波療法(Shockwave therapy)などが含まれましたが、それぞれの治療法における症例数が少なかったため、どの治療指針が最も高い効能を示したのかに関しては、詳細な統計的解析はなされていません。このため、今後の研究では、よりサンプル数を増やすことで、それぞれのタイプの異常所見に対する、最も効果的な治療法を検討する必要がある、という考察がなされています。

この研究では、最も頻繁に見られたMRI像上での異常所見としては、深屈腱および蹄関節側副靭帯の損傷が挙げられました。そして、これらの軟部組織は、舟状骨、舟嚢、舟状骨の繋靭帯(Navicular suspensory ligament)、Impar靭帯などから構成される、舟状骨合同装置(Navicular apparatus)の一部ではないため、これらの病態に対して、“舟状骨症候群”という病名を用いるのは適当ではない、という提唱がなされています。つまり、蹄踵部の診断麻酔に陽性でレントゲン検査が陰性であった症例では、舟状骨症候群という病名の確定診断(Definitive diagnosis)を下すためには、MRI検査を介しての周囲軟部組織異常の除外診断(Rule-out)が必須である、という解釈も成り立つかもしれません。

この研究のMRI検査において最も頻繁に診断された、蹄部深屈腱炎と蹄関節の側副靭帯の損傷では、診断麻酔の反応に多少の違いが見られることが知られています。例えば、掌側指神経麻酔では、いずれの病変も72%の陽性率(=跛行改善)を示しますが、蹄関節麻酔(Coffin joint block)に陽性を示すのは、蹄部深屈腱炎では68%に上るのに対して、蹄関節側副靭帯の損傷では24%にとどまることが知られています(Dyson et al. Proc AAEP. 2004;50:248)。一方、舟嚢麻酔(Navicular bursa block)に陽性を示すのは、蹄部深屈腱炎では67%に上るのに対して、蹄関節側副靭帯の損傷では0%であり、また、蹄部深屈腱炎では、腱鞘麻酔(Tendon sheath block)による跛行改善も、有用な診断指針であることが報告されています(Schneider et al. Proc AAEP. 2003;49:210)。このため、各種類の診断麻酔への反応を総合的に判断することで、MRI検査で見つかった異常所見の有意性(Significance)を、慎重に見極めることが重要であると考察されています。

一般的に、MRI画像診断では、T1強調画像(T1 weighted image)、T2強調画像(T2 weighted image)、脂肪抑制画像(Fat-suppressed image)、水抑制画像(Fluid attenuated inversion recovery image: FLAIR image)、拡散強調画像(Diffusion weighted image)などが用いられます。そして、最も頻繁に使用されるT1強調画像およびT2強調画像のうち、T1強調画像は水分が黒く低信号で描出され(見かけ上はCT画像に近い)、解剖学的構造(Anatomic structure)の評価に適しているのに対して、T2強調画像は水分が白く高信号で描出され、液体流動に変化が生じている病変箇所の発見に適しているという特徴があります(Whitton et al. Diagnosis and Management of Lameness in the Horse. 2003:216)。このため、急性の腱靭帯損傷(Acute tendon and ligament injuries)は、T1強調画像およびT2強調画像の両方で発見できるのに対して、慢性の腱靭帯損傷は、T1強調画像のみで発見される事があります。また、軟骨病変(Cartilage lesion)の発見のためには、軟骨下骨の厚みや形状の不規則さ(Irregularities of subchondral bone thickness and contour)の観察が、極めて重要であることが知られています。

この研究では、蹄部深屈腱炎の罹患馬に対する経時的なMRI検査の結果から、深屈腱炎の病巣が治癒した後にも、正常な信号強度(Signal intensity)は再確立(Re-establishment)されていなかった事が示され、これは、人間の医学領域におけるアキレス腱断裂での病巣経過とも合致していました(Muller et al. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2002;10:49)。このため、蹄部深屈腱炎の罹患馬の経過追跡(Follow-up)においては、正常歩様に回復した後に、MRI再検査の異常所見の消失を待つことで、運動復帰する適切な時期(=深屈腱炎を再発しない運動開始時期)を判断するという管理指針は、必ずしも有用ではないという考察がなされています。

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