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馬の文献:舟状骨症候群(Schramme et al. 2000)

「馬の舟嚢注射のための五種類の術式における生体外試験による比較」
Schramme MC, Boswell JC, Hamhougias K, Toulson K, Viitanen M. An in vitro study to compare 5 different techniques for injection of the navicular bursa in the horse. Equine Vet J. 2000; 32(3): 263-267.

この研究論文では、馬の舟状骨症候群(Navicular syndrome)に対する診断麻酔(Diagnostic anesthesia)および治療のための、舟嚢注射(Injection of the navicular bursa)における有用な術式を評価するため、125本の屍体前肢(Cadaveric forelimb)を対して、舟嚢注射の経験の無い術者が五種類の手技を介して舟嚢への針穿刺(Needle placement)を行い、レントゲン検査(Radiography)によって針の位置を確認してから、造影剤(Contrast material)の注入によって舟嚢注射が正確に行われたのか否かが評価されました。

この研究では、舟嚢注射のための術式としては、(1)蹄球間の中央部(Midway between the heel bulbs)で蹄冠のすぐ近位側(Immediately proximal to the coronary band)に針穿刺して、蹄冠と平行になるように、正中面を背側へと針進展(Advanced dorsally in the sagittal plane)させて、有意な抵抗(Significant resistance)があった時点で穿刺を止める術式、(2)蹄球間の中央部で蹄冠のすぐ近位側に針穿刺して、蹄底と平行(地面と平行)になるように、正中面を背側へと針進展させて、有意な抵抗があった時点で穿刺を止める術式、(3)蹄球の陥没部(Hollow of the heel)に針穿刺して、地面と30度の角度をなすように、正中面を背側へと針進展させて、有意な抵抗があった時点で穿刺を止める術式、(4)外側蹄軟骨(Lateral cartilage of the third phalanx)のすぐ近位側で、中節骨の外掌側縁(Lateropalmar border of the second phalanx)と深屈腱の外側縁(Lateral border of the deep digital flexor tendon)のあいだに針穿刺して、地面と45度の角度をなすように針進展させて、有意な抵抗があった時点で穿刺を止める術式、(5)球節屈曲した状態で木のブロックに蹄尖を載せて、蹄冠の最背側部と最掌側部の中間点から遠位側に1cmの箇所(Point on the lateral hoof wall, 1 cm distal to the coronary band, and halfway between the most dorsal and most palmar aspect of the coronary band)を「舟状骨の位置」(Navicular position)と定義してから、蹄球間の中央部で蹄冠のすぐ近位側に針穿刺して、上述で定義された「舟状骨の位置」を狙って、正中面を背側へと針進展させて、有意な抵抗があった時点で穿刺を止める術式、の五種類が実施されました。

結果としては、五種類の術式のうち、舟嚢のみに造影剤が注入されて、蹄関節(Coffin joint: Distal inter-phalangeal joint)や腱鞘(Tendon sheath)などの周囲軟部組織(Surrounding soft tissue)への迷入が無かった割合(=舟嚢注射の成功率)は、術式(1)~(4)ではそれぞれ、16%、32%、32%、40%に過ぎなかったのに対して、術式(5)では92%の成功率が達成されました。また、術式(5)において、上述の方針で定義された「舟状骨の位置」の蹄壁に、金属製の目印を付けた状態で側方レントゲン撮影を行うと、この「舟状骨の位置」と実際の舟状骨がほぼ一致していた事が報告されています。このため、舟状骨症候群の罹患馬に対する、診断のための舟嚢麻酔(Navicular bursa block)や、治療のための舟嚢注射に際しては、術式(5)を応用することで、信頼性の高い診断麻酔、および、周囲組織への迷入の危険が少ない治療薬の注入が可能であることが示唆されました。術式(5)における舟嚢注射の成功率が高かった要因としては、「舟状骨の位置」の定義が正確であったことに加えて、術式(1)~(4)と異なり、木のブロックに蹄部を載せた術式(5)では、体重の荷重減少(Reduced weight-bearing)と遠位肢の屈曲(Distal limb flexion)によって、舟状骨と深屈腱の隙間(=舟嚢のある場所)が大きくなり、溶液の注入が容易になったことが挙げられています。

一般的に、舟嚢麻酔は舟嚢(または舟状骨+舟嚢)を特異的に無痛化(Analgesia)できることから、掌側指神経麻酔(Palmar digital nerve block)によって顕著な跛行改善(Lameness improvement)が見られた症例(=必ずしも舟状骨や舟嚢が疼痛箇所だとは限らない)において、舟状骨症候群および舟嚢炎(Navicular bursitis)の確定診断(Definitive diagnosis)を下すために有用となります。このため、舟状骨症候群への診断麻酔では、掌側指神経麻酔の後に、蹄関節麻酔(Coffin joint block)より先に舟嚢麻酔を行う指針が示されていますが、レントゲン装置が無かったり、馬の気質から舟嚢麻酔が難しいケースもあります(診断麻酔の最中には鎮静剤を使えないため)。この場合には、蹄関節内に少量の麻酔薬を注射して、短時間(五分以内)で跛行改善が起きないのを確認することで、蹄関節内の疾患を除外診断(Rule-out)した後(五分以上待つと蹄関節から舟嚢へと麻酔薬が浸潤してしまうため)、冠関節麻酔(Pastern joint block)によっても跛行改善が起きないのを確認することで、掌側指神経麻酔が偽陽性(False positive)を示さなかったことを再確認する(掌側指神経麻酔の際に、誤って近位側へと麻酔薬浸潤が生じていなかった事を再確認する)、という診断指針が応用される場合もあります。

この研究の限界点(Limitation)としては、舟嚢注射の経験の無い術者が針穿刺を行ったことが挙げられ、もし、術式(1)~(4)においても、術者の経験が十分であれば、信頼性の高い舟嚢注射が実施できた可能性もあると考えられます。例えば、術式(4)では、他の四種類の術式と異なり、深屈腱を貫通させずに舟嚢へと針を到達させることが出来るため、万が一に馬が暴れた時にも、針先で深屈腱組織を医原性に損傷(Iatrogenic damage)させる危険が少ないという利点があることから、臨床医の判断によっては、術式(4)の針穿刺手技の熟練によって、舟嚢注射の成功率を高めるだけの価値があるとも言える、という考察がなされています。

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