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馬の文献:舟状骨症候群(Wright. 1993)

「ナビキュラー病の118症例の調査:舟状骨繋靭帯切断術による治療」
Wright IM. A study of 118 cases of navicular disease: treatment by navicular suspensory desmotomy. Equine Vet J. 1993; 25(6): 501-509.

この研究論文では、馬のナビキュラー病(Navicular disease)に対する有効な外科的療法を検討するため、掌側指神経麻酔(Palmar digital nerve block)での跛行改善(Lameness improvement)、および、レントゲン検査(Radiography)での異常所見によって、ナビキュラー病の推定診断(Presumptive diagnosis)が下された118頭の患馬に対して、舟状骨繋靭帯の切断術(Navicular suspensory desmotomy)、および、術後の三年間(六ヶ月ごと)にわたる跛行検査(Lameness examination)とレントゲン検査が行われました。

結果としては、舟状骨繋靭帯の切断術を受けた118頭の患馬のうち、手術から六ヵ月目に無跛行であった馬は76%で、手術から三年目に無跛行であった馬は43%であったことが示されました。一方で、治療前の病歴の長さと予後のあいだには負の相関(Negative correlation)が認められ、手術から一年目、二年目、三年目の時点で無跛行であった馬における治療前の病歴は、平均8~10ヶ月であったのに対して、これらの時点で跛行が残存していた馬における治療前の病歴は、平均19~20ヶ月と有意に長かったことが示されました。このため、ナビキュラー病の罹患馬に対しては、舟状骨繋靭帯の切断術によって、跛行症状の改善効果が期待できることが示唆されましたが、手術のタイミングは出来るだけ早期であることが望ましい(跛行症状の発現から一年以内)、という考察がなされています。

この研究では、舟状骨繋靭帯の切断術における術式として、(1)舟状骨繋靭帯が基節骨(Proximal phalanx)に付着する部位での切断、(2)同箇所において舟状骨繋靭帯を十分に剥離してから切断、(3)総指伸筋腱(Common digital extensor tendon)と基節骨遠位隆起(Distal eminence)のあいだに設けた切開創からアプローチして、蹄軟骨(Collateral cartilage of distal phalanx)の近位部位を走行する舟状骨繋靭帯を剥離&挙上して切断、という三種類が応用されました。このうち、(1)と(2)の術式では、冠関節(Pastern joint: Proximal inter-phalangeal joint)の関節包(Joint capsule)や滑膜(Synovial membrane)を損傷したり、関節周囲の骨新生(Peri-articular new bone formation)を生じる危険性があるため、(3)の術式が推奨されています。

一般的に、馬のナビキュラー病には様々な病因論(Etiology)があり、そのひとつとして、蹄形や肢形(Hoof/Limb conformation)の問題から、舟状骨繋靭帯~舟状骨~Impar靭帯からなる舟状骨繋靭帯合同装置(Navicular suspensory apparatus)に過剰な緊張力(Excessive tensile force)が生じて、舟状骨の退行性変化(Degenerative changes)を呈するという、生体力学的病因論(Biomechanical etiology)が提唱されています。ナビキュラー病の罹患馬において、舟状骨繋靭帯の切断術が、舟状骨の病態を改善する機序(Mechanism)としては、(1)舟状骨の物理的荷重(Mechanical loading)を減退させる、(2)軟骨下骨への圧力(Subchondral bone pressure)を減退させる、(3)骨再構築(Bone remodeling)の過程を変化させる、(4)舟状骨に掛かる屈曲力(Bending force)を取り除く、(5)舟状骨屈腱面(Navicular flexor cortex)と深屈腱(Deep digital flexor tendon)のあいだに起きた癒着(Adhesion)に掛かる緊張を無くす、(6)Impar靭帯からの牽引力を減少させる、(7)舟状骨の繋靭帯そのものに起因する疼痛を緩和させる、(8)舟状骨の近位および遠位血液循環(Proximal/Distal circulation)を向上させる、などが挙げられています。

この研究では、治療時の跛行グレードと予後のあいだに負の相関が認められ、手術から六ヶ月目の時点で無跛行であった馬の割合(%)を見ると、治療時の跛行グレード1~7の順に、81%、78%、50%、40%、60%、50%、0%となっていました。つまり、跛行が軽度のうちに舟状骨繋靭帯の切断術に踏み切ったほうが、術後に正常歩様を回復できる可能性が高いというデータが示され、初診時の綿密な跛行検査によって、ナビキュラー病の早期診断を下して、病態が軽い段階で外科的療法を応用することが重要である事が示唆されました。一方で、他の文献では、治療前のナビキュラー病の跛行グレードは、舟状骨繋靭帯の切断術への治療効果には相関していなかった、という知見も報告されています(Diehl et al. Pferdeheikunde. 1986;2:123)。

この研究では、治療時の側湾性肢変形症(Angular limb deformity)の有無と予後のあいだに負の相関が認められ、手術から一年目、二年目、三年目の時点で無跛行であった馬の割合(%)を見ると、肢変形症なしの馬ではそれぞれ、83%、93%、59%であったのに対して、手根内反症(Carpal valgus)や球節外反症(Fetlock varus)などの肢変形症を呈した馬ではそれぞれ、45%、47%、50%となっていました。このことから、馬のナビキュラー病においては、蹄繋軸後方破折(Broken back hoof-pastern axis)やアンダーランヒールなどの蹄形の問題だけでなく、肢全体の形態不備から生じる異常負荷が、その発症および病態進行(Disease progression)に関与している可能性もあると考えられました。

この研究では、術後のレントゲン検査において、舟状骨遠位縁の滑膜陥入(Distal border synovial invaginations)の改善が認められたのは1.7%の症例に過ぎなかったのに対して、屈腱面病巣(Flexor cortex lesion)の改善が認められたのは67%に上っていました。他の文献では、ナビキュラー病の罹患馬のうち、レントゲン検査において、ロリポップ状の滑膜陥入(Lollipop synovial invagination)、骨嚢胞(Bone cyst)、増殖体形成(Enthesiophyte formation)、屈腱面病変が認められた症例では、舟状骨繋靭帯の切断術によって、良好な治療成績を示し易いことが報告されています。

一般的に、馬の舟状骨繋靭帯に対しては、踏着尾側相(Caudal stance phase)でしか負荷が掛からないことが知られており、このため、舟状骨繋靭帯の切断術の後には、持続的に常歩運動(Walking exercise)を続けることで、切断術部位の断端同士が癒合しないようにする術後管理法(Post-operative management)が有効であると提唱されています。しかし、その適切なタイミングや運動量は経験的判断(Empirical judgement)に頼る部分が多く、術創の一次性治癒(First intention healing)を妨げない範囲で常歩運動を行う必要がある、という警鐘も鳴らされています。

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