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馬の病気:腹膜炎

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腹膜炎(Peritonitis)について。

馬における腹膜炎は、重篤な消化器疾患から二次性に発症することが一般的で、腸捻転、絞扼、重積、逸脱(Intestinal volvulus, strangulation, intussusception, or prolapse)などに伴う腸管虚血(Intestinal ischemia)、胃および腸管穿孔(Gastric/Intestinal perforation)、十二指腸近位空腸炎(Duodenitis-proximal jejunitis)などに続発する病態が知られています。また、分娩時の子宮外傷(Uterine trauma)や、膀胱破裂(Urinary bladder rupture)に伴う腹尿症(Uroperitoneum)等の、泌尿器および生殖器疾患に起因して発症する場合もあります。医原性腹膜炎(Iatrogenic peritonitis)の病因としては、去勢手術(Castration)、腹水採取(Abdominal tap)に伴う腸管または脾臓穿刺(Intestinal/Splenic penetration)、不適切な直腸検査(Inadequate rectal palpation)に伴う直腸裂傷(Rectal tear)、盲腸の経皮套針術(Percutaneous trocalization of cecum)、膣切開術(Colpotomy)を介しての卵巣摘出術(Ovariectomy)などが挙げられ、腸切開術(Enterotomy)や腸吻合術(Intestinal anastomosis)に続発する術後合併症(Post-operative complication)として発症する場合もあります。馬では一次性腹膜炎(Primary peritonitis)の発生は稀ですが、血行性細菌感染(Hematogenous bacterial infection)、腹腔膿瘍(Abdominal abscess)、寄生虫迷入(Parasite migration)、腹腔の穿孔性外傷(Penetrating wound of abdomen)などに起因して起こる可能性があります。

腹膜炎の症状はその原因と経過によって様々で、重度消化器疾患による二次性腹膜炎では、発熱(Pyrexia)、食欲不振(Anorexia)、軽度腹痛症状(Mild abdominal pain)、腸蠕動音の低下(Reduced borborygmi)などを呈し、原発疾患である疝痛症状との鑑別が困難な症例もあります。また、胃や腸管の破裂および穿孔に起因する腹膜炎では、頻脈(Tachycardia)、頻呼吸(Tachypnea)、粘膜うっ血(Congested mucous membrane)、毛細血管再充満時間の遅延(Prolonged capillary refilling time)等の、急激な内毒素血症(Endotoxemia)、および、全身性炎症反応症候群(Systemic inflammatory response syndrome)の症状を示し、数時間以内に死亡する症例もあります。一方で、慢性腹膜炎を呈した患馬では、間欠性疝痛(Intermittent colic)、沈鬱(Depression)、食欲低下(Anorexia)、体重減少(Weight loss)、間欠性の発熱、腹部浮腫(Ventral edema)、運動不耐性(Exercise intolerance)等を示すのみの場合もあります。

腹膜炎の診断においては、臨床症状の観察に加えて、腹水検査(Abdominocentesis)において、白血球数および蛋白濃度の上昇、好中球含有率の上昇(>90%)、顕微鏡下での細胞内細菌(Intracellular bacteria)の存在が認められ、細菌培養(Bacterial culture)に陽性反応を示す事もあります。腹水の色が無色の場合には膀胱破裂、緑色の場合には胃や腸管破裂、赤色または茶色の場合には脾臓穿刺や内臓裂傷(Viscera laceration)などが疑われます。また、腹水のpH下降、ブドウ糖濃度の低下(Decreased glucose concentration)、フィブリノーゲン濃度上昇、および、腹水と血清のブドウ糖濃度差の増加(濃度差が50mg/dLの場合)などが、初期病態の腹膜炎の診断指標(Diagnostic parameters)となることが示唆されています。一方、去勢、出産(Parturition)、開腹術(Celiotomy)の後には、腹膜炎を起こしていなくても、5~7日間にわたって白血球数および蛋白濃度の上昇が見られる場合が多いため、細菌培養や細胞内細菌の観察が腹膜炎の診断指針となる可能性が示されています。

腹膜炎の罹患馬における直腸検査では、呻き声などの壁性疼痛症状(Parietal pain)を示し、胃や腸管の破裂を起こした症例では、腹膜面の粗雑化(Roughened peritoneal surface)が触知されます。また、腹部超音波検査(Abdominal ultrasonography)では、原発疾患である消化管異常の診断に併せて、腹水の増量(Increased abdominal fluid volume)、繊維素生成の亢進(Increased fibrin formation)、腸管癒着(Intestinal adhesion)などが観察されます。血液検査においては、急性病態では脱水(Dehydration)と血液濃縮(Hemoconcentration)によるPCVおよび蛋白濃度の上昇、および高フィブリノーゲン血症(Hyperfibrinogenemia)を示しますが、経過の進行に伴って毛細血管透過性亢進(Increased capillary permeability)から腹腔への蛋白漏出(Protein leakage)を起こし、低蛋白血症(Hypoproteinemia)が認められます。また、病状の悪化によっては、高窒素血症(Azotemia)、低ナトリウム血症(Hyponatremia)、低クロール血症(Hypochloremia)、低カリウム血症(Hypokalemia)が見られる場合もあります。

腹膜炎の治療においては、患馬の容態の安定化(Patient stabilization)を第一指針としますが、胃、腸管、子宮の破裂が疑われる症例では、緊急の開腹術(Emergency celiotomy)によって、損傷部の外科的整復か安楽死(Euthanasia)の選択かを判断する必要があります。患馬の安定化に際しては、経静脈補液療法(Intravenous fluid therapy)による再水和(Rehydration)と電解質不均衡(Electrolyte imbalance)の改善、高免疫血漿(Hyperimmune plasma)やヒドロキシエチル澱粉溶液(Hydroxyethyl starch)などのコロイド投与による血漿膠質浸透圧(Plasma oncotic pressure)の上昇を施し、内毒素血症の続発が疑われた症例に対しては、LPS抗血清(LPS antiserum)やポリミキシンB抗生物質(Polymyxin-B antibiotics)による循環内毒素の中和(Neutralization of circulating endotoxin)、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)による内毒素誘導性炎症の抑制(Inhibition of endotoxin-induced inflammation)、DMSOの投与による活性酸素種の除去(Removal of reactive oxygen species)などが試みられます。

腹膜炎の根治療法では、全身性抗生物質投与(Systemic anti-microbial administration)とMetronidazoleの経直腸投与を行い、腹水検体を用いての細菌培養および抗生物質感受性試験(Antibiotic susceptibility test)によって使用薬剤を選択することが推奨されています。また、腹腔洗浄(Abdominal lavage)を介して、腹腔内の細菌および毒素の減少(Reduction of bacteria/toxin)、退行性好中球の排出(Removal of degenerative neutrophils)、血液、尿、腸漏出物の排出(Removal of blood/urine/ingesta)、繊維素の希釈(Dilution of fibrin)を施す治療法も有効で、10~20リットルのリンゲル溶液を注入後、20~30分の曳き馬運動をしてから、洗浄液を排出させる指針が提唱されています。また、この洗浄液中にヘパリンを添加して、腸管癒着を予防する治療も有効ですが、洗浄液中にイオジンや抗生物質を添加する手法は、その効能が医学的には証明されていないため、実施には賛否両論(Controversy)があります。

腹膜炎の罹患馬は予後不良(Poor prognosis)を呈する場合が多く、生存率は40~50%に留まっており、蹄葉炎(Laminitis)、下痢症(Diarrhea)、腸閉塞(Ileus)、血液凝固障害(Coagulopathies)、腹腔膿瘍、腹腔癒着などを示した症例では、特に予後が悪いことが報告されています。また、初診時における腹水検査や血液検査による予後判定(Prognostication)は信頼性が低いことが知られており、このような検査値が芳しくない症例においても、患馬が初期治療に対して迅速な反応性(Rapid responses to initial therapies)を示した場合では、比較的良好な経過が期待できることが示唆されています。

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