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馬の文献:蹄葉炎(Rucker. 2010a)

「北米における馬の静脈造影法とその臨床応用」
Rucker A. Equine venography and its clinical application in North America. Vet Clin North Am Equine Pract. 2010; 26(1): 167-177.

この総説論文では、馬の静脈造影法(Venography)とその臨床応用(Clinical application)が解説されています。

馬の蹄部静脈造影法(Digital venogram)は、起立位での実施が可能で、通常のレントゲン検査では発見できない蹄部の病態を、早期診断するのに有用であることから、蹄葉炎(Laminitis)、蹄底膿瘍(Subsolar abscessation)、蹄骨炎(Pedal osteitis)、蹄血班(Sole bruising)などの診断に応用されています。実施に際しては、まず鎮静剤(Sedatives)の投与と、遠軸種子骨神経麻酔(Abaxial sesamoid block)によって遠位肢を無痛化(Distal limb analgesia)した後、管部(Metacarpi)が地面に垂直になるように、患馬をブロックの上に立たせ、レントゲン撮影用のフィルムとカメラを準備します。次に、種子骨の周りに止血帯(Tourniquet)を巻きつけ、球節下部に怒張してくる外側指静脈(Lateral digital vein)へとバタフライ・カテーテル(21-gauge)を穿刺して、チューブをテープで固定します(馬が動いてもカテーテルが抜けないように)。

そして、カテーテルへと流入してきた血液をチューブの外端から滴下させた後(静脈内に空気が迷入のを防ぐため)、シリンジを付けて合計24mLの造影剤(=Diatrizoate meglumine contrast)を注入します(12mL/Syringe x 2-syringes)。その後、術者は、手根部を前方に押し出すようにして罹患肢を挙上させて、造影剤が蹄部脈管に行き渡るようにしてから、再び罹患肢をブロックの上に戻し、速やかにレントゲン撮影を行います。レントゲン像としては、外内側撮影像(Latero-medial view)の他に、背掌側撮影像(Dorso-palmar view)、スカイライン撮影像(Dorso-proximal-to-disto-palmar view)、蹄踵挙上時(Elevated heel)の外内側撮影像、不過重状態(Non-weight-bearing)での外内側撮影像、などが含まれますが、いずれも、造影剤の注入完了から45秒以内に撮影する必要があります。造影検査終了後には、止血帯を外してからカテーテルを抜き、圧迫包帯(Pressure bandage)を20~30分間装着して止血します。

手技的ミスとして最も起こりやすいのは、不十分な量の造影剤が注入(Inadequate volume of contrast material)されることによる、脈管異常のアーティファクトで、一般の軽種馬の蹄部造影には、24mLの造影剤が必要なのに対して、大型のウォームブラッドでは36mLを要したり、小型のポニーでは12mLで済むこともあります。また、このアーティファクトは、静脈内へのカテーテル穿刺の不備で生じることもあり、静脈外に造影剤が漏れていないかを慎重に触診したり、造影剤の注入中に抵抗を感じた場合には、チューブ内に血液を吸引してみて、カテーテルが外れていないかを確認することが大切です。造影剤の漏れが1~2mLであった場合には、止血帯を一度外して10分間止血した後、内側指静脈(Medial digital vein)を介して再造影することも可能ですが、静脈が重度の損傷した場合には、三日以上経ってから再検査することが推奨されています。

正常な馬の蹄部静脈造影では、逆行性充填(Retrograde filling)によって静脈と動脈の両方が確認されます。掌側指動脈(Palmar digital arteries)は蹄骨掌側皮質面(Palmar cortex of distal phalanx)から進入し、終端弓の底側管(Solar canal in terminal arch)へと達し、小さな動脈が蹄骨頭頂面(Parietal surface of distal phalanx)から蹄葉下脈管叢(Sublamellar plexus)を通って蹄真皮(Lamellar corium)に至ります。蹄葉下脈管床(Sublamellar vascular bed)は、蹄骨面から背側、内側、外側へ4mmの位置に、明瞭な線として認められ、回旋血管(Circumflex vessels)は蹄骨遠位端から下側および尖端側(Distal and peripheral to the distal margin)に見られます。終端弓と底側乳頭(Sole papillae)は、蹄骨から10mm以内の距離に認められ、回旋動脈と蹄葉組織の連結部(Lamellar-circumflex junction)は50度の角度(外内側撮影像)を成します。蹄冠脈管叢(Coronary plexus)は、蹄骨伸筋突起(Extensor process of distal phalanx)の近位背側部に認められ、この脈管叢は体重負荷の度合いによって外内側で非対象(背掌側撮影像)に見られる場合もあります。蹄踵の脈管は、重度の蹄骨変位(Severe displacement of distal phalanx)を起こした症例でも、特に異常を示さないことが一般的です。

馬の蹄部静脈造影では、正常な蹄においてもバリエーションが見られます。例えば、造影剤は負荷の掛かっている箇所には到達しにくく、蹄繋軸後方破折(Broken-back hoof-pastern axis: Negative distal phalanx palmar angle)を呈した馬では、蹄骨掌側突起(Palmar processes of distal phalanx)より遠位側の回旋血管像は減退し、また、蹄底の厚さが10mm以下である馬では、底側乳頭(Sole papillae)は認められません。造影剤の量が不十分であった場合には、脈管像は不明瞭な線として見られますが、蹄葉炎に起因する蹄骨変位を生じていた場合には、鈍性切断された血管(Bluntly truncated vessels)および造影剤の空隙(Contrast voids)として認められます。また、レントゲン撮影のタイミングが遅すぎて、組織内の造影剤が浸潤してしまった場合には、全体的な混濁像(generalized opacity)として見られ、病態に由来する明瞭な脈管変化(Distinct vascular alterations caused by pathology)とは明らかに異なった所見を示します。

蹄葉炎の罹患馬においては、蹄部静脈造影における異常所見が、通常のレントゲン像で異常が見られる前に確認できます。この場合、蹄骨変位が進行するにつれ、蹄冠脈管叢、蹄葉下脈管床、回旋血管などが歪み始め、造影剤の流入が減退もしくは停滞(Reduction/Absence of contrast)するようになります。このような異常所見は、跛行(Lameness)や蹄骨変位の重篤度に比例することが報告されています。罹患肢への体重負荷は、造影剤の流れに大きく影響することが知られており、例えば、完全な体重負荷時(Full weight-bearing)と比べて、20度の角度の蹄踵楔(Heel wedge)を用いた場合の背側蹄部の造影剤流入は、健常馬では変化しませんが、蹄葉炎の罹患馬では顕著に増加することが報告されています。また、不過重状態でのレントゲン像では、軽度~中程度の蹄葉炎の罹患馬でも、背側蹄部の造影剤流入が見られますが、極めて重篤の脈管異常を呈した蹄葉炎症例では、不過重状態においても造影剤の空隙が見られることが知られています。

蹄葉炎の治療においては、跛行グレードの変化は治療効果の指標となりにくく、通常のレントゲン像によって病態改善が認められるようになるには、長期間を要します。このため、経時的な蹄部静脈造影は、装蹄療法(Therapeutic shoeing)や外科的療法の治療効果を、三日~七日おきに評価できるという利点があります。一般的に、馬の蹄葉炎には二つの進行形式(Patterns of progression)が見られます。一つ目は、(1)ゆっくりと下降線を描くように、蹄葉組織への損傷が蓄積(Damage accumulation)していって、四~六週間で病態悪化に至る場合で、二つ目は、(2)発症から48時間以内に、急激な蹄骨変位を起こす場合です。そして、これらの二つの形式には、静脈造影像所見に明確なの違いが見られます。

まず、(1)の損傷蓄積型の蹄葉炎では、蹄葉下脈管床の幅が広がり、底側乳頭の不明瞭化や消失、および、回旋血管の歪みなどが認められます。この場合には、運動制限(Restricted exercise)と非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与に併行して、装蹄療法としては、蹄尖短縮による蹄反回の改善(Improved hoof break-over)と、約20度の蹄踵挙上が推奨されます。二週間以内の再検査では、底側乳頭の鮮明化と、回旋血管の歪みの改善が示され、治療開始から十日目までには、蹄底の厚さが2~3mm増加することが一般的です。しかし、病態悪化が進行した症例では、再検査において蹄冠脈管叢が折れ曲がり、近位蹄壁に引っ張られるにつれて垂直方向に伸長して、その幅を徐々に狭まる所見が見られます。

また、近位背側蹄葉下造影(Proximal dorsal sublamellar contrast)が減退し、回旋動脈と蹄葉組織の連結部が屈曲していく(角度が50度以下になる)傾向が認められます。そして、蹄骨尖が回旋血管より下部まで進行することによって、回旋血管および蹄底真皮からの造影剤の消失と、連結部での終端乳頭が水平になるように変形し、これらの所見は、深屈腱切断術(Deep digital flexor tenotomy)を必要とすることを示唆すると提唱されています。一方、蹄冠真皮(Coronary corium)からの造影剤の消失は、蹄壁切除(Hoof wall resection)を必要とすることを示唆すると考えられています。終端弓からの造影剤の消失は、蹄骨炎(Distal phalanx osteitis)を続発する可能性を示し、予後は非常に悪い(Grave prognosis)ことを示唆する所見であると考えられます。慢性に経過した症例においては、蹄葉下真皮(Sublamellar corium)に造影剤が全体的に拡散しますが、慢性期に急性発現性に蹄葉炎を続発した場合には、ラメラーウェッジの深部に急性期と同様な造影所見が示される事もあります。

一方、(2)の急性進行性の蹄葉炎では、蹄葉下脈管床が三角形をなすようにその幅を広げ(Rectangular widening)、蹄表皮と蹄真皮が完全に裂離(Complete separation of dermal and epidermal laminae)すると、蹄葉下脈管床は均一性の造影領域(Homogeneous zone of contrast)として認められます。そして、病態進行に伴って、蹄部全体からの造影剤の消失や、蹄冠欠陥の断絶(Truncated vessels at the coronary band)が見られるようになります。このような所見が認められた症例に対しては、24~48時間に病態把握して積極的治療(Aggressive treatment)を施すことが重要で、深屈腱切断術の実施に加えて、経固定具ピンギプス(Transfixation-pin casting)の装着や、蹄壁切除術が併用されることもあります。

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