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馬の病気:大結腸左背方変位

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大結腸左背方変位(Large colon left dorsal displacement)について。

大結腸が脾臓(Spleen)と左側腹壁(Left abdominal wall)の間に変位する疾患で、左側大結腸が脾臓と腎臓の隙間に引っ掛かる事が多く、その状態を腎脾間捕捉(Nephrosplenic entrapment)と呼びます。大結腸左背方変位の病因としては、左腹側大結腸(Left ventral colon)にガスが停滞(Gas accumulation)して左側大結腸が反転する過程で、脾臓と左腹壁の隙間に迷入することによって発症すると考えられています。左側大結腸自体は通常180°以上の捻転(Colon torsion)には至らないため、大結腸絞扼(Large colon strangulation)が起こることは稀ですが、病状の悪化に伴って結腸壁の浮腫(Colonic wall edema)と血流鬱滞(Vascular compromise)を併発することがあります。また、上述の病態(タイプ1)と比較して、持続性のガス貯留によって胸骨曲および横隔曲(Sternal and diaphragmatic flexures)が胃の頭背側へと変位(Cranio-dorsal migration to stomach)して、胃と肝臓左葉(Left lobe of liver)のあいだに引っ掛かった状態を、タイプ2とする場合もあります。

大結腸左背方変位の症状としては、漸進発現性(Gradual onset)の軽度~中程度疝痛(Mild to moderate colic)を呈し、捕捉部大結腸のガス性膨満(Gas distension)に伴って、頻脈(Tachycardia)、頻呼吸(Tachypnea)、排糞停滞(Reduced fecal output)などが見られます。また、経過が24時間以上に及んだ症例では、結腸鬱滞(Colonic congestion)による粘膜障害(Mucosal damage)と、十二指腸圧迫(Pressure of duodenum)から胃排出の阻害(Gastric outflow obstruction)を生じて、経鼻カテーテルによる多量の胃逆流液(Nasogastric reflux)の排泄を呈する場合もあります。

大結腸左背方変位の診断では、直腸検査(Rectal examination)において、大結腸のガス性膨満と脾臓の内方変位(Medial displacement of spleen)が確認されますが、左側大結腸の骨盤曲(Pelvic flexure)は正常位置付近に発見できる事もあります。また、患馬のサイズによっては、大結腸が腎脾間靭帯(Nephrosplenic ligament)の上方を、頭尾方向に走行している事を触知できる場合もあります。腹腔超音波検査(Abdominal ultrasonography)では、正常では見られるはずの左腎臓が、大結腸に邪魔されて見つからない所見を特徴とし(=超音波プローブは地面に平行に当てる事が推奨される)、脾臓の下端が腹側へと伸展(Ventral extension of lower edge of spleen)している所見が認められる事もあります。腹水検査(Abdominocentesis)では、顕著な異常は認められない場合が殆どですが、脾臓の腹側変位に伴って、腹側正中部からの針穿刺によって脾臓血(Splenic blood:PCV値が静脈血よりも高い)が採取される事もあります。

大結腸左背方変位の内科的治療では、補液療法(Fluid therapy)による再水和(Rehydration)と電解質不均衡(Electrolyte imbalance)の改善、口籠装着(Muzzling)による摂食制限(Withholding feed)、非ステロイド性抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与などが行われ、大結腸膨満が軽度~中程度の場合には、フェニレフリン投与によって脾臓収縮(Splenic contraction)を施した後(=高齢馬では胸腔出血や腹腔出血などの副作用に注意)、調馬索運動(Lunging exercise)による振動で、引っ掛かった大結腸を遊離させる方法が試みられます。また、膨満が重度の症例では、全身麻酔下(Under general anesthesia)でのローリング法(右側横臥位→背側臥位→左側横臥位→胸骨位→右側横臥位)によって大結腸を遊離させる療法も効果的です。さらに、右側横臥位において直腸壁を介して大結腸を持ち上げ、そのまま左側横臥位へとローリングさせる手法も試みられていますが、直腸裂傷(Rectal tear)を起こす危険を考慮して、その実施には細心の注意を要するという警鐘が鳴らされています。

大結腸左背方変位の外科手術においては、起立位での膁部切開術(Standing flank laparotomy)では、左腹壁の切開創から罹患部位に到達し、脾臓を下方に押し下げながら捕捉されている大結腸を押し上げて遊離を試み、その後、脾臓の下部から大結腸を腹腔内の正常位置へと移動させます。全身麻酔下での正中開腹術(Midline celiotomy)では、馬体を僅かに右に傾けることで手術が容易となる場合もあり、脾臓を上方(腹側)へと持ち上げて腹腔内側方向へと押し出し、脾臓と腹壁のあいだに充分な空隙をつくってから、捕捉されている大結腸の下部に腕を通して持ち上げ、脾臓の上方から腹腔内の正常位置へと移動させます。

大結腸左背方変位の予後は一般的に良好で、再発率(Recurrence rate)は一割以下であることが示されています。しかし、術後に複数回にわたって腎脾間捕捉が再発する症例では、腹腔鏡手術(Laparoscopy)によって左腎臓と脾臓の間の隙間を縫合したり、この隙間を焼灼(Ablation)または人工メッシュで閉鎖することで、大結腸の捕捉を予防する方法も試みられています。

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