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馬の文献:大結腸左背方変位(Abutarbush et al. 2005)

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「馬における大結腸の腎脾間捕捉の内科的および外科的治療の比較:1992~2002年の19症例」
Abutarbush SM, Naylor JM. Comparison of surgical versus medical treatment of nephrosplenic entrapment of the large colon in horses: 19 cases (1992-2002). J Am Vet Med Assoc. 2005; 227(4): 603-605.

この症例論文では、大結腸左背方変位(Large colon left dorsal displacement)に起因する腎脾間捕捉(Renosplenic entrapment)に対する、内科的および外科的療法の治療効果および予後を比較するため、1992~2002年にわたる19頭の腎脾間捕捉の罹患馬の診療記録(Medical records)の解析が行われました。内科的療法では、フェニレフリン投与による脾臓収縮(Splenic contraction)を施した後に調馬索運動(Jogging)を行う手法、およびフェニレフリン投与後にローリング法(右側横臥位→背側臥位→左側横臥位→胸骨位→右側横臥位)を行う手法が実施され、外科的療法では、正中開腹術(Midline celiotomy)による整復を施す手法が実施されました。結果としては、内科的療法が実施された11頭のうち10頭が治癒し、外科的療法が実施された8頭のうち6頭が治癒したことから、双方の治癒率には有意差が無く、内科的および外科的療法のいずれにおいても比較的に良好な予後が期待できることが示唆されました。

この研究では、フェニレフリン投与&調馬索運動による治療が行われた3頭の患馬のうち、腎脾間捕捉の整復が達成されたのは1頭のみで、あとの2頭は全身麻酔下でのローリング法が必要となりました。この研究における症例選択では、超音波検査(Ultrasonography)によって大結腸が完全に腎脾間隙に捕捉されているのが確認された患馬のみ含まれ、大結腸がまだ脾臓と腹壁の隙間に位置している不完全変位(Incomplete displacement)の症例は除外されています。サンプル数が少ないので他の文献との比較は難しいですが、この論文においてフェニレフリン投与&調馬索運動による治療法の成功率が低かったのは、このように軽度病態の腎脾間捕捉が含まれていない事に起因するのかもしれません。

この研究では、内科的療法による腎脾間捕捉の整復が達成された11頭の患馬のうち、1頭が整復の五時間後に播種性血管内凝固(Disseminated intravascular coagulation)を発症し、安楽死(Euthanasia)が選択されました。この患馬の病態は詳しくは検証されていませんが、大結腸左背方変位の他にも、重篤な消化器疾患の併発が起こっていた可能性は否定できません。このため、腎脾間捕捉の診断が下された症例においても、慎重な直腸検査(Rectal examination)および超音波検査によって、小腸、盲腸、小結腸などの疾患を除外診断することが重要であると考えられます。

この研究では、外科的療法による腎脾間捕捉の整復が行われた8頭の患馬のうち、1頭が大結腸破裂(Large colon rupture)のため術中に安楽死が選択され、もう1頭は2ヶ月後に大結腸捻転(Large colon volvulus)のため再入院し安楽死が選択されました。これらの合併症は、ローリング法による治療が試みられた場合にも起こっていたかもしれないと考察されており、必ずしも外科的療法のマイナス要因として見なされるべきものではないのかもしれません。しかし、いずれも長時間にわたる大結腸壁の圧迫(Compression)や虚血(Ischemia)によって引き起こされた病態であると推測されることから、入院時に既に長時間の経過を示していた症例においては、ローリング法の実施によって外科的治療を遅延させ過ぎないように注意する必要があるのかもしれません。

この研究における、腎脾間捕捉の罹患馬の入院日数は、内科的療法では平均二日間、外科的療法では平均九日間で、内科的療法が行われた場合のほうが有意に短期間でした。また、患馬の入院費用も、内科的療法では平均400ドル、外科的療法では平均2200ドルで、内科的療法が行われた場合のほうが有意に安価でした。これらは、外科的療法の欠点と言うよりも、外科的療法を要するほど経過が悪化した患馬において、より長期間および集中的な術後治療(Prolonged/Intensive post-operative care)が必要であったことを反映していると言え、早期に腎脾間捕捉の診断を下すことで、内科的療法のみでの治癒を達成できる場合の、経済的メリットを示したデータであると考えられるのではないでしょうか。

馬の腎脾間捕捉において、内科的および外科的治療のどちらを実施するかは、必ずしも容易な選択ではありません。この研究論文および他の文献を総合すれば、外科的療法を選択するべき要因としては、(1)腎脾間捕捉であるという確定診断が付かなかった場合、(2)疝痛症状や大結腸膨満が重篤であった場合、(3)患馬が五ヶ月以上の妊娠牝馬であった場合、(4)ローリング法による整復が不成功であった場合、などが挙げられています。しかし、文献の中には、ローリング法を複数回試みることで、軽度の腎脾間捕捉であれば内科的な整復を達成できるという知見もあります。今後の研究では、超音波検査、直腸検査、腹水検査(Abdominocentesis)などの結果に基づいて、内科的&外科的な治療法の客観的な選択方針(Objective selection criteria)を確立することが重要であるのかもしれません。

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