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馬の文献:網嚢孔捕捉(Freeman et al. 2005)

「馬の網嚢孔捕捉における外科治療後の短期生存率と他の絞扼性小腸疾患との比較」
Freeman DE, Schaeffer DJ. Short-term survival after surgery for epiploic foramen entrapment compared with other strangulating diseases of the small intestine in horses. Equine Vet J. 2005; 37(4): 292-295.

この症例論文では、馬の網嚢孔捕捉(Epiploic foramen entrapment)に対する外科療法の治療効果を評価するため、網嚢孔捕捉の罹患馬の医療記録(Medical records)の解析、および他の絞扼性小腸疾患(Strangulating small intestinal diseases)の罹患馬との比較が行われました。この研究には、27頭の網嚢孔捕捉の罹患馬、52頭の有茎性脂肪腫(Pedunculated lipoma)の罹患馬、そして78頭の他の絞扼性小腸疾患の罹患馬が含まれました。

結果としては、麻酔覚醒(Anesthesia recovery)された患馬のうち、退院(=短期生存)した馬の割合は、網嚢孔捕捉では95%、有茎性脂肪腫では84%、その他の絞扼性小腸疾患では91%であったことが示され、網嚢孔捕捉の短期生存率(Short-term survival rate)は、有茎性脂肪腫およびその他の絞扼性小腸疾患の短期生存率よりも有意に高いことが報告されています。このため、馬の網嚢孔捕捉における外科治療後の予後は、その他の絞扼性の小腸疾患よりも良好である場合が多いことが示唆されました。この研究における網嚢孔捕捉の生存率は、他の文献で報告されているものよりかなり高く、この要因としては、馬臨床医がこの疾患の存在や治療法に精通してきたこと、腹部超音波検査(Abdominal ultrasonography)の普及などによって早期診断が可能になってきたこと、などが挙げられています。

この研究では、罹患部位の小腸の生存能(Viability)を評価するため、他の文献で提唱されている、以下のような五段階の点数化システム(Grading system)が用いられました(Freeman et al. Proc. AAEP. 2001; 47: 105-109.)。
グレード1:腸壁の色が絞扼の整復後の15分以内に回復し、自発的な腸蠕動が観察される場合。
グレード2:腸壁の色が絞扼の整復後の15分以内に回復するものの、重篤な浮腫や斑状出血などが認められ、腸蠕動の減退が見られる場合。
グレード3:グレード2に類似するものの、周回性の狭窄や黒色の斑点などが見られる場合。
グレード4:腸壁の色が絞扼の整復後の15分以内には完全に回復せず、腸壁の色が濃赤~紫色を呈したり、腸壁の肥厚または虚弱化、絞扼部位の狭窄などが見られる場合。
グレード5:腸壁の色が散在性に灰色~黒色を呈し、壊死性の悪臭が見られる場合。

その結果、グレード1~5のうち、腸管がまだ生存能を保っていると考えられるグレード1~3に該当した患馬は、網嚢孔捕捉では35%、有茎性脂肪腫では15%、その他の絞扼性小腸疾患では52%であったことが示されました。この生存能のグレードに反比例するかたちで、罹患部位の小腸の切除(Small intestinal resection)を要した患馬の割合は、網嚢孔捕捉では62%、有茎性脂肪腫では87%、その他の絞扼性小腸疾患では48%であったことが示されました。このため、有茎性脂肪腫は他の二つのグループに比べて、罹患部位に重篤な虚血性壊死(Ischemic necrosis)を生じやすく、小腸切除を要する可能性が有意に高いことが示唆されています。

この研究では、絞扼部位に空腸(Jejunum)と共に回腸(Ileum)が巻き込まれていた馬の割合は、網嚢孔捕捉では81%、有茎性脂肪腫では31%、その他の絞扼性小腸疾患では46%であったことが示され、網嚢孔捕捉は他の二つのグループに比べて、回腸が巻き込まれる危険が有意に高いことが示されました。これを反映して、網嚢孔捕捉の罹患馬では、その43%が空腸盲腸吻合術(Jejunocaecostomy)を要し、空腸々々吻合術を要したのは10%の患馬に過ぎませんでしたが、一方で、有茎性脂肪腫の罹患馬では、空腸盲腸吻合術を要したのは37%にとどまり、空腸々々吻合術を要したのは47%に上ったことが報告されています。このため、網嚢孔捕捉の罹患馬では、回腸が絞扼を起こして、空腸盲腸吻合術(=一般的に空腸々々吻合術よりも術式が難しく、術後合併症を起こす危険が高い)による病変切除が必要となる場合が多いことが示唆されています。しかし、回腸が巻き込まれた症例のほうが予後が悪くなるという傾向は認められなかった事から、絞扼を起こした消化管の部位に関わらず、適切な外科治療が応用されれば、術後には比較的に良好な予後が期待できることが示唆されています。

馬の小腸疾患における外科治療では、一般的に手術時間が長いほど予後が悪いことが知られています。この研究では、手術時間と予後の関係は統計的に解析されていませんが、小腸切除を要した症例では明らかに手術時間が長引く傾向が見られました。また、網嚢孔捕捉において捕捉されている小腸を引き抜いて遊離させる過程は、有茎性脂肪腫において絡まった脂肪腫をほどく過程に比べて、より長時間を要すると推測されています。このため、腹部超音波検査などで、網嚢孔捕捉が疑われる症例においては、出来るだけ迅速に開腹術実施の判断を下して(腸管の虚血性壊死が予測される場合には特に)、病変部位の外科的整復が遅延し過ぎないように努めることが重要であると考えられました。

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