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馬の文献:網嚢孔捕捉(Vachon et al. 1995)

「網嚢孔における小腸ヘルニア:1987~1993年の53症例」
Vachon AM, Fischer AT. Small intestinal herniation through the epiploic foramen: 53 cases (1987-1993). Equine Vet J. 1995; 27(5): 373-380.

この症例論文では、馬の網嚢孔(Epiploic foramen)における小腸ヘルニア(Small intestinal herniation)の外科治療効果と予後に関わる因子を発見するため、1987~1993年にわたる53頭の網嚢孔捕捉(Epiploic foramen entrapment)の罹患馬の医療記録(Medical records)の解析が行われました。

結果としては、網嚢孔捕捉の罹患馬では、79%の短期生存率(Short-term survival rate)と、70%の長期生存率(Long-term survival rate)が示され、また、非生存馬(Non-survivors)における腹水蛋白濃度(平均3.94g/dL)は、生存馬(Survivors)の腹水蛋白濃度(平均2.66g/dL)よりも有意に高かったことが報告されています。このため、馬の網嚢孔捕捉の外科治療では、予後は中程度にとどまり、予後不良から安楽死(Euthanasia)となる症例も比較的に多いことが示唆されています。また、腹水検査(Abdominocentesis)による蛋白濃度の測定値は、小腸の虚血性変化(Ischemic changes)を反映していると考えられ、網嚢孔捕捉の罹患馬における、予後判定(Prognostication)の指標として有用であると考えられました。

この研究では、腹部超音波検査(Ultrasonography)を介して、網嚢孔捕捉に起因して生じた小腸膨満(Small intestinal distension)および腸壁肥厚(Intestinal wall thickening)が明瞭に観察されました。また、直腸検査(Rectal examination)によって膨満した腸管が触知できなかった症例においても、超音波像によって小腸絞扼(Small intestinal strangulation)の推定診断が可能であったことから、網嚢孔捕捉が疑われる症例においては、直腸検査や腹水検査に腹部超音波検査を併用することで、より信頼的かつ感度の高い診断が可能であることが示唆されました。

この研究では、数頭の網嚢孔捕捉の罹患馬において、捕捉されている部位の小腸壁が重度の浮腫を呈していたため、この部位の腸管の内容物を網嚢孔外へと流し出すことが出来ませんでした。このため、これらの症例では、正常部位の小腸を敢えて網嚢孔内へと押し入れることで、腸内容物を下流へと排出させて、捕捉部位の小腸を網嚢孔外へと引き出すことが可能となりました。しかし、外科治療が行われた患馬のうち5%において、小腸を操作する際に尾側大静脈(Caudal vena cava)または門脈(Portal vein)の医原性損傷(Iatrogenic damage)が起きたことが報告されており、網嚢孔捕捉の遊離に際しては、(1)充分な量の腹腔内潤滑剤を使用すること、(2)小腸を網嚢孔に対して垂直方向に引っ張ること、(3)網嚢孔を拡大させて小腸を引き出す試みは決して実施しないこと、などの静脈破裂(Venous rupture)の予防処置を講じる必要があると考えられました。

この研究では、外科治療が応用された網嚢孔捕捉の罹患馬のうち、84%において小腸切除および吻合術(Small intestinal resection/anastomosis)が実施されましたが、切除された腸管の長さ自体は、非生存馬(平均4.8m)と生存馬(平均3.3m)では有意差はありませんでした。一方、網嚢孔捕捉されていた腸管の長さ(=切除を要した腸管の長さ)と、腹水蛋白濃度(=有用な予後指標)のあいだにも相関は見られなかったことから、たとえ捕捉されている部位の腸管が短かった症例でも、経過が長引いたり虚血性壊死が悪化していた場合には、腹水性状の異常を示して、予後は悪くなる可能性が高いという考察がなされています。

この研究では、網嚢孔捕捉に見られた合併症(Complication)としては、16%の症例で術後腸閉塞(Post-operative ileus)、9%の症例で下痢(Diarrhea)、6%の症例で癒着(Adhesion)などが認められ、また、二度目および三度目の開腹術を要したのは、27%の症例に上りました。このため、網嚢孔捕捉に対する外科治療の応用に際しては、術後合併症の危険が高く、複数回の外科療法を要する可能性があることを考慮して、経済的な側面からも慎重に治療方針の決定に努めることが大切であると推測されています。

この研究では、網嚢孔捕捉の罹患馬のうち、去勢馬(Gelding)が74%(39/53頭)を占めており、対照郡に占める去勢馬の割合(36%)よりも有意に高いことが示され、また、去勢馬であった場合には網嚢孔捕捉を発症する可能性が四倍以上も高くなることが示唆されました(オッズ比:4.22)。しかし、この論文では、なぜ去勢馬において網嚢孔捕捉が好発するのか、に関する考察や結論付けはなされていません。

古典的には、馬の網嚢孔は加齢による肝臓萎縮(Hepatic atrophy)に起因してサイズが拡大して、小腸を捕捉しやすくなるといわれてきました。しかし、この研究では、網嚢孔捕捉の罹患馬の平均年齢は9.8歳で、対照郡の平均年齢とのあいだに有意差は認められず、また、11ヶ月齢において網嚢孔捕捉を発症した症例も見られたことから、患馬の年齢のみで網嚢孔捕捉の推定診断または除外診断を下すべきではない、という考察がなされています。

この研究では、長期生存を果たした網嚢孔捕捉の罹患馬のうち、二頭において慢性肝障害(Chronic liver disease)に起因する体重減少(Weight loss)が認められました。これは、網嚢孔捕捉の発症時に引き起こされる門脈および尾側大静脈の圧迫から、虚血性肝臓壊死(Ischemic hepatic necrosis)を続発したためと考察されていますが、いずれの症例においても肝臓生検(Liver biopsy)は行われておらず、網嚢孔捕捉と慢性肝障害の因果関係を裏付けるデータは示されていません。

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