RSS

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

馬の文献:胃潰瘍(Sykes et al. 2015)

「馬の胃潰瘍症候群の治療のためのオメプラゾールの二種類の投与濃度の比較:盲検かつ無作為の濃度比例臨床試験」
Sykes BW, Sykes KM, Hallowell GD. A comparison of three doses of omeprazole in the treatment of equine gastric ulcer syndrome: A blinded, randomised, dose-response clinical trial. Equine Vet J. 2015; 47(3): 285-290.

この研究論文では、馬の胃潰瘍症候群(Gastric ulcer syndrome)に対するオメプラゾールの治療効果を検討するため、胃内視鏡検査(Gastroscopy)によってグレード2以上の胃潰瘍が確認された60頭のサラブレッド競走馬を、三種類の濃度のオメプラゾール投与郡(1.0 or 2.0 or 4.0 mg/kg-BW)に無作為に割り振り(運動の1~4時間前に投与)、28日後に行われた再度の胃内視鏡検査によって、胃潰瘍病巣の治癒度合いの評価が行われました。

結果としては、扁平上皮部の潰瘍(Squamous ulceration)の治癒においては、低濃度(1.0 and 2.0 mg/kg-BW)のオメプラゾールでも、高濃度(4.0 mg/kg-BW)のオメプラゾールより劣っている訳ではない、というデータが示されました。このため、運動前に投与する治療方針においては、1.0 mg/kg-BWという低い投与量によって、充分な胃潰瘍の治癒作用が期待できることが示唆されました。

このように、低濃度のオメプラゾールでも効能が認められた理由としては、投与が運動の1~4時間前に行われることで、運動中の胃酸生成が抑制(Gastric acid suppression)されて、扁平上皮部が胃酸に暴露(運動時の体躯の振動によって起こり易い)される度合いが弱まった、という考察がなされています。もう一つ考えられる理由としては、この研究の対象となった馬達は、運動の12~14時間前に給餌され、それを四時間程度で完食することから、オメプラゾール投与の時点では上部消化管が空っぽに近い状態だったので(完食してから8~10時間経っている)、オメプラゾールが効率良く吸収されて、薬剤が生物学的に使用可能な度合い(Bioavailability.)が高くなった、という仮説もなされています。

この研究では、オメプラゾール投与によって胃潰瘍が治癒した馬の割合は、扁平上皮部の潰瘍では86%であったのに対して、腺上皮部の潰瘍(Glandular ulceration)では14%と、有意に低かった事が分かりました。同様に、胃潰瘍のグレードが改善した馬の割合も、扁平上皮部の潰瘍では96%であったのに対して、腺上皮部の潰瘍では34%と有意に低く、また、腺上皮部の潰瘍のうち36%においては、胃潰瘍のグレードが悪化したというデータも示されました。人間の医学においては、扁平上皮部の病態である逆流性食道炎(Reflux esophagitis)と、腺上皮部の病態である潰瘍性胃炎(Ulcerative gastritis)では、治療に必要な胃酸抑制には差異が無いことが知られていますが(Shin et al. Curr Gastroenterol Rep. 2008:10;528)、馬においてもこの傾向が当てはまるか否かは解明されていません。

この研究において、扁平上皮部の潰瘍に比べて、腺上皮部の潰瘍のほうが、オメプラゾールによる効能が低かった要因としては、腺上皮部の潰瘍の発生(Development)または永続化(Perpetuation)に際して、細菌感染(Bacterial infection)が関与している可能性(=胃酸抑制だけでは治りにくく、抗菌剤を併用すれば治り易かった?)が示唆されています。過去の幾つかの文献では、腺上皮部の潰瘍に罹患した馬から、ヘリコバクター様病原体(Helicobacter-like organisms)が分離されており(Contreras et al. Lett Appl Microbiol. 2007;45:553)、難治性(Refractory)の腺上皮部潰瘍に対しては、抗生物質療法(Antimicrobial therapy)の併用が推奨されています(Nadeau et al. EVJ. 2009;41:611)。

この研究の限界点(Limitation)としては、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の使用の有無が記録されていなかった事が挙げられていますが、NSAID投与によって、馬の胃潰瘍が発症または悪化するかについては論議(Controversy)があります。過去の文献では、フルニキシンやフェニルブタゾンの投与(通常の薬用量の五割増し)によって胃潰瘍が起こったという報告がある一方で(MacAllister et al. JAVMA. 1993:202;71)、フェニルブタゾン(通常の薬用量)が15日間にわたって投与されても胃潰瘍は起こらなかった、という知見も示されています(Andrews et al. Vet Ther. 2009:10;113)。また、腺上皮部の潰瘍の発症において、NSAID投与は有意な危険因子(Risk factor)とは認められなかった、という報告もなされています(Habershon-Butcher et al. JVIM. 2012:26;731)。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.
Copyright (C) Akikazu Ishihara All Rights Reserved.

関連記事:
馬の病気:胃潰瘍
スポンサーサイト

プロフィール

Rowdy Pony

Author:Rowdy Pony
名前: 石原章和
性別: 男性
年齢: 40代
住所: 神奈川県
職業: 獣医師・獣医学博士
叩けよ、さらば開かれん!

ブログメニュー

FC2カウンター

リンク

カレンダー

05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -

最新記事

月別アーカイブ

お断わり

20130414_Blog_Message_Pict1.jpg
このサイトに掲載されているイラスト、画像、文章は、すべて管理主自身が作成したもの、もしくは、著作権フリーの素材リンクから転載したものです。

カテゴリ

全記事表示リンク

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
学問・文化・芸術
407位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
自然科学
43位
アクセスランキングを見る>>

天気予報


-天気予報コム- -FC2-

FC2ブログランキング

検索フォーム

RSSリンクの表示

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。