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馬の病気:馬回帰性ブドウ膜炎

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馬回帰性ブドウ膜炎(Equine recurrent uveitis)について。

急性ブドウ膜炎(Acute uveitis)の治癒後に、眼内炎症(Intraocular inflammation)を一定期間を置きながら繰り返し発症する疾患で、馬においては最も多い失明(Blindness)の原因であることが報告されています。周期性眼炎(Periodic ophthalmia)もしくは月盲(Moon blindness)と呼ばれる事もあります。馬回帰性ブドウ膜炎は、四歳~八歳の若齢馬に好発し、また、遺伝性素因(Genetic predisposition)としてはアパルーサ種における発症率が高いことが報告されています。しかし、アパルーサは潜在性ブドウ膜炎(Insidious uveitis)を呈する症例が多いことから、他の品種とは異なる機序で発症する可能性が示唆されています。

馬回帰性ブドウ膜炎の原因としては、免疫介在性の遅延性過敏症反応(Immune-mediated delayed hypersensitivity reaction)が挙げられています。原発感染性病原体(Incriminated infectious pathogen)としては、レプトスピラ菌(Leptospira interrogan serovar pomona)が最も重要な細菌であることが示唆されていますが、眼性回旋糸状虫症(Cutaneous onchocerciasis)、トキソプラズマ症(Toxoplasmosis)、ブルセラ症(Brucellosis)、サルモネラ症(Salmonellosis)から続発する場合や、大腸菌(Escherichia coli)、ロドコッカスエクイ菌(Rhodococcus equi)、消化管円虫(Intestinal strongyles)等に対する過敏反応から発症する病態もあると考えられています。

馬回帰性ブドウ膜炎では、細菌と宿主間での蛋白構造の類似性に起因する分子擬態(Molecular mimicry)が起きる事が知られており、レプトスピラ菌に対する抗体(Anti-Leptospira antibodies)は、角膜および水晶体組織(Corneal/Lens tissues)に対しても交差反応(Cross-reactivity)を示すことが報告されています。そして、この分子擬態現象が、持続性のレプトスピラ菌感染(Persistent Leptospira infection)が無いにも関わらず、回帰性にブドウ膜炎症を生じる原因であると考えられています。

さらに、馬回帰性ブドウ膜炎には自己免疫性機序(Autoimmune mechanism)も関与することが示唆されており、網膜溶解性抗原(Retinal soluble antigen)、光受容体間レチノイド結合蛋白(Interphotoreceptor retinoid-binding protein)、ブドウ膜メラニン随伴蛋白(Uveal melanin-associated protein)等の、自家性眼性蛋白(Endogenous ocular protein)に対して自己免疫(Autoimmunity)が起こることが報告されています。このことから、レプトスピラ菌などの初期感染に起因して、構造性変化(Structural alteration)を起こした眼組織に対して自己免疫反応が生じることも、周期性にブドウ膜の炎症が発現する要因であると考えられています。また、この自己免疫性機序の発生に際しては、抗原決定基流布(Epitope spreading)と呼ばれる分子内変換現象(Intramolecular shift phenomenon)が起こり、病態の進行に伴って複数の眼性蛋白が抗原として作用し始め、この現象が引き金となって回帰性の過敏症反応に至る可能性が示されています。

馬回帰性ブドウ膜炎の症状としては、一般的にレプトスピラ菌等による初期感染においては、主に虹彩毛様体炎(Iridocyclitis)を生じますが、その後に増感免疫細胞(Sensitized immunocompotent cells)がブドウ膜組織内に浸潤して、二度目以降の抗原に過敏反応を示すことで、水晶体(Lens)、硝子体(Vitreous)、網膜(Retina)、眼神経(Optic nerve)等の損傷を引き起こします。

馬回帰性ブドウ膜炎の初期病態では、眼瞼痙攣(Blepharospasm)、過剰流涙(Excessive tearing)、縮瞳(Miosis)などが認められ、結膜(Conjunctiva)、角膜(Cornea)、前眼房(Anterior chamber)における炎症から“赤目”外観(Red eye appearance)を示しますが、その後は広汎性角膜浮腫(Diffuse corneal edema)の発現によって、青白目外観(Bluish white eye appearance)を呈するようになります。

さらに、馬回帰性ブドウ膜炎の病態の進行に伴って、ブドウ膜の脈管透過性亢進(Increased uveal vessel permeability)に起因する炎症性細胞や赤血球の流入(Influx of inflammatory cells and erythrocytes)から、前房蓄膿(Hypopyon)や前房出血(Hyphema)が認められるようになります。また、脈絡網膜炎(Chorioretinitis)によって視神経乳頭(Optic disc)の両側に多巣性の色素脱失または色素沈着(Mutifocal depigmentation or hyperpigmentation)を生じることから、昆虫のチョウに似た特徴的な乳頭周囲蝶様病巣(Peripapillary butterfly-like lesion)、および、弾丸穴様瘢痕(Bullet-hole-like scarring)が見られるようになります。

永続性の角膜混濁(Permanent corneal opacity)を生じる慢性回帰性ブドウ膜炎(Chronic recurrent uveitis)においては、虹彩後癒着(Posterior synechiae)、虹彩の色素脱失または色素沈着(Iris depigmentation or hyperpigmentation)、黒質体変性(Corpora nigra degeneration)、虹彩萎縮(Iris atrophy)などが認められます。さらに、虹彩と水晶体の癒着(Iris-to-lens adhesion)が進行した症例では、眼房水(Aqueous humor)が後眼房(Posterior chamber)の内部に停滞することから、虹彩が前方に膨らむ所見(Iris balloon forward appearance)(いわゆるIris bombe)を呈する場合もあります。

馬回帰性ブドウ膜炎において、水晶体に生じる病変としては、前方水晶体膜の色素斑点(Pigment flecks on anterior lens capsule)から濃縮性白内障(Dense cataract)まで様々な病態が見られ、水晶体小帯や硝子体の変性(Degeneration of lens zonules and vitreous)に起因する水晶体脱臼(Lens luxation)に至る症例もあります。さらに病態の進行した馬回帰性ブドウ膜炎では、硝子体溶解(Vitreous liquefaction)から網膜剥離(Retinal detachment)や視神経乳頭萎縮(Optic disc atrophy)を起こしたり、永続性の低眼圧(Permanent hypotony)から眼球萎縮(Phthisis bulbi)を示す場合もあります。

馬回帰性ブドウ膜炎の診断では、回帰性の病歴と上述の特徴的な臨床症状から推定診断(Presumptive diagnosis)が下されることが一般的ですが、病歴が不確定な症例においては、炎症性病態を示唆する以下の所見のうち、最低三つに該当するのを確かめることで、推定診断を下す指針が推奨されています。(1)角膜浮腫または血管新生、(2)虹彩癒着、(3)虹彩萎縮または変色(下記写真)、(4)水晶体色素沈着、(5)白内障、(6)水晶体脱臼または亜脱臼、(7)硝子体混濁または牽引帯、(8)視神経乳頭周囲瘢痕。

馬回帰性ブドウ膜炎における血清学的検査(Serologic test)としては、レプトスピラ菌に対する血清抗体価(Serum antibody titer)の測定が行われますが(抗体価1:400以上が陽性)、陽性結果は馬回帰性ブドウ膜炎の推定診断における肯定要素と見なせるのに対して、陰性結果は必ずしも馬回帰性ブドウ膜炎を除外診断したり、レプトスピラ菌の関与を否定する要因にはなりえません。また、結膜生検(Conjunctival biopsy)を介して、回旋糸状虫のミクロフィラリアの発見が試みられる場合もありますが、ミクロフィラリアの存在のみでは、馬回帰性ブドウ膜炎の発症との因果関係を証明する事は出来ない、という警鐘が鳴らされています。

馬回帰性ブドウ膜炎の治療では、眼内炎症減退(Reduction of intraocular inflammation)によって、視覚の維持に努めることを第一指針とし、コルチコステロイド、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs: NSAID)、散瞳薬(Mydriatic agent)、毛様体筋麻痺薬(Cycloplegic agent)等の局所投与(Topical administration)または全身投与(Systemic administration)が行われます。局所投与に際しては、患馬にストレスを掛けることなく、頻繁な投薬を確実かつ簡易に実施するため、眼瞼下洗浄システム(Subpalpebral lavage system)を介しての治療が応用される場合もあります。

コルチコステロイド療法では、PredonisoloneもしくはDexamethasoneの局所投与が選択されることが一般的で、症状改善後も最低二週間は治療を継続することが重要です。また、頻繁な投薬を許容しない患馬に対しては、Triamcinoloneを眼結膜下注射(Subconjunctival injection)する手法も有効です。しかし、潰瘍性角膜(Ulcerative keratitis)を起こした症例に対しては、コルチコステロイドの局所投与は禁忌(Contraindication)であるため、治療開始前に必ず蛍光染色検査(Fluorescent staining test)を実施して、角膜潰瘍(Corneal ulceration)を除外診断することが必要です。散瞳薬および毛様体筋麻痺薬としては、通常はアトロピンの溶液または軟膏(Atropine solution/ointment)が使用されますが、充分な散瞳が達成されない症例に対しては、Phenylephrine溶液の局所投与が併用される場合もあります。

馬回帰性ブドウ膜炎の内科療法によって、症状の改善が認められた症例においては、炎症の再発予防を目的として、免疫抑制剤(Immunosuppressive drug)であるCyclosporin-Aの硝子体内埋め込み(Vitreous implantation)または上脈絡膜腔埋め込み(Suprachoroidal space implantation)が行われます。また、経扁平部硝子体切除術(Pars plana vitrectomy)を介して、線維素や炎症性細胞の除去(Fibrin and inflammatory cell removal)、視覚向上(Vision improvement)、潜在性レプトスピラ菌の洗浄、等を施す療法が試みられる場合もあります。逸話的報告(Anecdotal reports)としては、複数の種類のワクチンを同一日に接種した際に、眼組織炎症の再発が見られたことが報告されていることから、馬回帰性ブドウ膜炎の病歴を持つ馬に対しては、毎年のワクチン接種を二回に分けて最低でも一週間空けて実施することが推奨されています。

馬回帰性ブドウ膜炎の罹患馬における視覚の維持に関しては、その予後は中程度~不良(Moderate to poor prognosis for vision)であることが知られており、56%の症例において片目または両目の失明(Unilateral/Bilateral blindness)が起きたことが報告されています。また、他の症例報告によれば、アパルーサ種における馬回帰性ブドウ膜炎は特に予後が悪く、レプトスピラ抗体の陽性馬では50%、陰性馬でも27%において、完全失明(Complete blindness)が起きたことが報告されています。一方、アパルーサ以外の品種における馬回帰性ブドウ膜炎では、レプトスピラ抗体の陽性馬では17%、陰性馬では6%において、完全失明が起きたことが報告されています。

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