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馬の病気:鼠径ヘルニア

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鼠径ヘルニア(Inguinal hernia)について。

内鼠径輪(Vaginal ring、Internal inguinal ring)から鼠径管(Inguinal canal)に入り込んだ消化管が絞扼(Strangulation)を起こす疾患で、一般的に牡馬(Stallion)に発症しますが、去勢馬(Gelding)や牝馬(Mare)にも稀に見られます。遺伝的に太い鼠径管を持つと言われている、スタンダードブレッドおよびテネシーウォーキングホースでの発症率(Incidence)が高いことが知られています。

鼠径管には、回腸(Ileum)もしくは遠位空腸(Distal jejunum)が最も頻繁に迷入しますが、極めて稀に大結腸を巻き込む場合もあります。迷入した小腸は通常、鼠径管から陰嚢(Scrotum)の内部に達しますが(=間接ヘルニア:Indirect hernia)、陰嚢膜破裂(Scrotal tunic rupture)を続発した場合には、陰嚢外の皮下に消化管が触診されます(=直接ヘルニア:Direct hernia)。また、内鼠径輪の近縁部における腹膜破裂(Peritoneal rupture)から鼠径ヘルニアを併発した場合には、小腸が陰嚢部の皮下に現れ、この病態を鼠径破裂(Inguinal rupture)と呼び、直接ヘルニアよりも長い腸管(1m前後)が逸脱する傾向にあります。

幼馬における先天性(Congenital)の鼠径ヘルニアは、左側に多く発症し、不症候性(Asymptomatic)の場合は、3~6ヶ月で自然に鼠径管が閉鎖することが一般的ですが、小腸絞扼を引き起こした症例では、抑欝(Depression)、間欠性疝痛(Intermittent colic)、陰嚢腫脹(Scrotum swelling)などの症状を呈します。間接ヘルニアの症例では、鼠径部切開創を介して、精巣挙筋(Cremaster muscle)を切除してから精巣を捻転させることで、迷入した小腸を腹腔内に戻します。その後、閉鎖型去勢(Closed castration)と鼠径管および外鼠径輪(External inguinal ring)の縫合を行われ、また、腹腔鏡手術(Laparoscopy)や正中開腹術(Midline celiotomy)を介しての整復法も報告されています。直接ヘルニアの症例では、破裂した陰嚢膜の辺縁を見つけ、迷入した小腸を陰嚢内から腹腔内に戻した後、陰嚢膜の縫合を行い、羅患側精巣の去勢が選択された場合には、鼠径管および外鼠径輪を縫合します。一般に先天性鼠径ヘルニアでは、迷入した小腸は軽度の絞扼を生じるのみで、虚血性壊死(Ischemic necrosis)には至らない場合が殆どです。また、腹腔鏡を用いての、鏡下縫合術(Intracorporeal suture)によって、非侵襲的な起立位手術(Noninvasive standing surgery)を介して内鼠径輪を閉鎖する術式も試みられています。

若馬の去勢後に発症した鼠径ヘルニアでは、致死的な腸管逸脱(Intestinal evisceration)を併発する危険があるため、上述の好発品種(特に六ヶ月齢以下の症例)、および直腸検査(Rectal examination)で内鼠径輪の内径が大きい(2指以上)ことが確認された個体における去勢では、全身麻酔下での閉鎖型去勢を実施し、精管と精巣挙筋を別個に挫滅したり、鼠径管を縫合するなどの予防処置(Preventive aid)を講じることが推奨されています。去勢後の鼠径ヘルニアを発症した症例においては、術後の数時間以内に腸管逸脱が視認されることが一般的で、治療では鼠径部切開創と正中開腹術による迷入小腸の整復と洗浄、鼠径管および外鼠径輪の閉鎖を行い、術後の腹水検査(Abdominocentesis)によって感染性腹膜炎(Septic peritonitis)の合併症を確認します。一方、大網(Greater omentum)のヘルニアが認められた症例においては、直腸検査で小腸が内鼠径輪内に迷入していない事を確認できれば、逸脱した大網を起立位で切除してから、外鼠径輪の縫合を行うだけで済みます。

成馬における後天性(Acquired)の鼠径ヘルニアでは、鼠径管の内部で小腸絞扼が生じ、迷入した腸管が精巣まで達することは稀です。症状としては、一般に中程度~重度の疝痛症状(Moderate to severe colic)を呈し、経鼻カテーテルによって多量の胃逆流液(Gastric reflux)の排出が見られ、精巣脈管(Testicular vessels)の圧迫に伴う精巣の膨満(Distension)、硬化(Consolidation)、冷感を生じます。診断に際しては、直腸検査によって内鼠径輪への小腸迷入と小腸膨満(Intestinal distension)を触診することが重要ですが、牡馬の気質上、直腸検査の実施が困難な場合は、陰嚢の超音波検査(Ultrasonography)によって確定診断が下されます。後天性鼠径ヘルニアの初期病態においては、直腸壁を介して迷入した小腸を腹腔内に引き戻す方法も試みられていますが、直腸裂傷(Rectal tear)を起こす危険を考慮して実施には賛否両論(Controversy)があります。また、陰嚢マッサージと腹腔鏡手術を併用して、迷入した小腸を腹腔内に引き戻し、一週間後の腹腔鏡による再手術でヘルニア縫合(Herniorrhaphy)を施す術式も報告されています。小腸絞扼を併発し、整復が困難なヘルニア症例においては、鼠径部切開創と正中開腹術を用いて、陰嚢膜を切開して迷入した小腸を腹腔内に戻した後、小腸の除圧(Decompression)、壊死部の切除(Resection of necrotic bowel)、小腸吻合術(Intestinal anastomosis)を行います。ヘルニアの再発予防と鼠径管縫合を容易にする目的に加えて、発症側の精巣が機能異常を呈する事が多いため、ヘルニア整復後には片側性去勢を行うことが推奨されています。この場合には、残された側の精巣が機能増加を示し、種牡馬としての能力にはあまり影響しないことが示唆されています。去勢をしない場合には、鼠径管を部分的に縫合閉鎖したり(精巣への血流は維持させておく)、腹腔鏡手術を介して鼠径管をポリプロピレンメッシュや腹膜フラップで覆う手法も報告されています。

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