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馬の病気:双胎妊娠

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双胎妊娠(Twin pregnancy)について。

馬における双子の胎児の妊娠は、その多くが二重排卵(Double ovulation)によって発生することが知られており、二重排卵を起こし易いサラブレッドとスタンダードブレッドに好発することが報告されています。馬の双胎妊娠は、非感染性流産(Non-infectious abortion)の最も重要な原因の一つで、片方の胎児が成長不全から斃死に至る場合が多く、両方の胎児が難産を示さず健康に分娩される確率は約2%に過ぎないことが報告されています。このため、動物愛護の観点からも、双胎妊娠が確認された全ての妊娠牝馬において、どちらかの胎児(もしくは両方の胎児)の妊娠中絶(Pregnancy termination)を行うべきであることが提唱されています。

古典的な双胎妊娠の予防法としては、交配前にサイズの大きい二つの卵胞(Large follicles)が認められた場合には、二重排卵が起きる危険を考慮して、交配そのものを見合わせたり、一つ目の排卵が起きてから10~12時間後に再検査を行って、二つ目の排卵のタイミングを見極めてから交配が行われることもあります。しかし、二重排卵が起こった場合にも、基本的に両方の卵子が受精する可能性は低いため、卵胞の数に関わらず交配を行って、受精後の超音波検査(Ultrasonography)によって複数の胚芽小胞を発見および処置する指針が取られることが一般的です。

胚芽小胞(Embryonic vesicle)は受精後16日前後で、子宮角基底部(Base of uterine horn)に着床(Nidation)を起こすため、受精後12~14日目の経直腸超音波検査(Transrectal ultrasonography)によって複数の胚芽小胞の存在を確認し、より近位側にある小胞(More proximal vesicle)を手動分離(Manual separation)によって子宮角の尖端(Tip of uterine horn)へと移動させて、指先で胚芽嚢を破裂(Embryonic capsule rupture)させることで双胎妊娠を防ぐ処置が施されます。この手法では、二つの胚芽小胞を充分に離して施術できれば、もう片方の小胞の生存率は90%に上ることが報告されています。受精後12~14日目では、超音波検査による胚芽小胞と子宮内膜嚢胞(Endometrial cyst)の鑑別は困難である場合が多いので、交配直前の超音波検査の際に子宮内膜嚢胞の位置、数、サイズを記録しておくことが重要です。また、胚芽小胞と子宮内膜嚢胞との区別が不明瞭な症例においては、数日後の再検査で胚芽小胞のサイズが増している所見で(一日当たり約4mmの成長)、子宮内膜嚢胞との鑑別診断が行われます。

受精後20日以降になってから二つの胚芽小胞が発見された場合にも、両側性着床(Bilateral nidation)(=二つの胚芽小胞が左右別々の子宮角に着床)の場合には、一方の胚芽嚢の手動的破砕が可能ですが、片側性着床(Unilateral nidation)の場合には、小胞の分離は難しく、手動操作によって両方の胚芽嚢を破砕させてしまう危険が高いことが示されています。しかし、片側性着床においても、約70%の症例において一方の胚芽小胞が自然消失(Natural reduction)するため、その後の数週間の継続的な超音波検査によって、二つの胚芽小胞の経過をモニタリングすることが重要です。また、この期間中に、母馬の濃厚飼料摂取量を減らすなどの食餌制限(Dietary restriction)を施すことで、双胎妊娠が生じる可能性を減退できる事も示唆されています。逆に両側性着床では、一方の胚芽小胞が自然消失する可能性は4%にしか過ぎないため、必ず手動で一方の小胞を破砕させることが重要です。

自然消失が起きなかった片側性着床では、片方の胚芽小胞を中絶させるため、超音波誘導による経膣尿膜穿刺(Ultrasound-guided transveginal allantocentesis)が試みられます。この手法では、直腸壁を介して胚芽小胞が存在する子宮角を保持してから、子宮頚管の側方に当てた超音波プローブを介して小胞の位置を確認し、膣壁を貫通させながらサイズの小さいほうの胚芽小胞内へと60cm-18Gの脊髄針を穿刺させて、胚芽液吸引(Embryonic fluid aspiration)を行います。経膣尿膜穿刺の成功率は三割前後であることが報告されており、妊娠35日目までに施術された場合には成功率が高いことが示されています。また、穿刺していないほうの小胞が死滅する場合には、施術後の二週間以内に起きる場合が殆どです。妊娠45~60日目の症例においては、片方の胚芽小胞を外科的に除去する手法も報告されています。

胚芽小胞の消失が達成されず、双胎妊娠が起きてしまった症例では、妊娠60~110日目において、一方の胎児の頭頚部脱臼(Craniocervical dislocation)を介しての妊娠中絶が試みられます。この手法では、直腸壁を介して胎児の頭部を操作することが一般的ですが、手技的に困難であったり胎児の位置が手の届かない範囲であった場合には、起立位膁部開腹術(Standing flank laparotomy)によって、子宮壁から直接的に胎児の頭部にアプローチする手法が取られます。この際には、中絶を行うほうの胎児が位置している子宮角を術前に特定するのは困難である場合が多いため、手動操作の範囲を確保し易い右側膁部開腹術が選択される症例が殆どです。頭頚部脱臼による中絶の成功率は60~70%であることが報告されており、通常は施術後の一週間以内に胎児の死亡が超音波で確認されます。

双胎妊娠が起きてしまった症例において、妊娠115~130日目では、超音波誘導による経腹壁胎児心穿刺(Ultrasound-guided transabdominal fetal cardiac puncture)を介して、一方の妊娠胎児の心臓内にカリウム溶液を注入することで妊娠中絶が試みられます。この手法では、サイズの小さいほうの胎児を中絶することが理想ですが、超音波検査での正確な体格評価は困難である場合が多いため、心拍数が正常値に近いほうの胎児を残す指針が取られることが一般的です。経腹壁胎児心穿刺による中絶の成功率は40~60%であることが報告されています。通常は施術の翌日には注射された側の胎児の死亡が超音波で確認され、死亡した胎児はミイラ化残遺物(Mummified remnant)として尿膜腔内に残り、健常側の胎児と一緒に分娩されることが示されています。心穿刺によって両方の胎児が死亡する要因としては、双胎妊娠において胎児間の脈管吻合(Vascular anastomosis)が存在することが挙げられています。心穿刺が手技的に困難な場合には、Procaine Penicillin Gを胎児の腹腔内もしくは胸腔内に注入する手法も試みられていますが、心臓穿刺よりも成功率は低いことが報告されています。

頭頚部脱臼および胎児心穿刺による妊娠中絶が行われた患馬に対しては、もう一方の胎児が流産するのを防ぐため、Progestin製剤(Altenogest, etc)の補給療法(Supplemental therapy)による子宮筋活動の減退(Reduction of myometrial activity)および子宮静止化(Uterine quiescence)や、ベータ2交感神経作動薬(Beta-2 sympathomimetic drugs: Clenbuterol, etc)の経口投与による子宮運動の抑制、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs: flunixin meglumine, etc)の経静脈投与によるProstaglandin抑制などが行われます。

双胎妊娠において、両方の胎児を中絶させることが選択された場合には、妊娠35日以前では、Prostaglandin投与によって黄体融解(Corpora lutea lysis)が試みられ、それ以降の妊娠牝馬に対しては、Fluprostenol、Cloprostenol、Oxytocin等の投与が行われます。

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