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馬の病気:網嚢孔捕捉

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網嚢孔捕捉(Epiploic foramen entrapment)について。

網嚢孔(Epiploic foramen)は、右背側腹腔から網嚢(Omental bursa)への連絡孔で、肝臓尾状突起(Caudate process of liver)および尾側大静脈(Caudal vena cava)が背側境界を成し、肝十二指腸靭帯(Hepatoduodenal ligament)および門脈(Portal vein)が腹側境界を成しています。網嚢は通常は閉鎖されていますが、加齢による肝臓萎縮(Hepatic atrophy)によって、網嚢孔が形成されると考えられており、この隙間に小腸(極めて稀に大結腸)が迷入して、腸管の捕捉および絞扼(Intestinal entrapment and strangulation)を引き起こします。網嚢孔捕捉は、晩秋~冬季に発症が多いことが報告されており、また、サク癖(Cribbing)による胸腔陰圧(Negative intrathoracic pressure)の発生によって、小腸が頭側腹腔部へと引き寄せられることも病因の一つであると仮説されています。

網嚢孔捕捉の症状としては、急性発現性(Acute onset)の重度疝痛(Severe colic)、および、経鼻カテーテルによる胃逆流液の排出(Nasogastric reflux)が認められる事が一般的ですが、小腸絞扼の重篤度によっては、疝痛症状は軽度に留まったり、胃逆流液を示さない場合もあります。また、多くの症例が、発汗(Sweating)、頻脈(Tachycardia)、頻呼吸(Tachypnea)、脱水(Dehydration)などを呈し、捕捉部小腸の虚血および壊死(Ischemia and necrosis of entrapped intestine)に伴って内毒素血症(Endotoxemia)を続発した場合には、毛細血管再充満時間の遅延(Prolonged capillary refilling time)、高体温(Hyperthermia)、口唇粘膜への毒素線(Endotoxic line)の出現などが認められます。

網嚢孔捕捉の診断においては、経鼻カテーテルによる中程度~重度の胃逆流液排出(Moderate to severe nasogastric reflux)が見られますが、胃除圧(Gastric decompression)の後にも疼痛が減退しない場合が殆どです。直腸検査(Rectal examination)においては、小腸膨満(Small intestinal distension)と腸壁浮腫(Intestinal wall edema)が触診されますが、通常は網嚢孔に迷入している小腸部位までは術者の手は届きません。腹腔超音波検査(Abdominal ultrasonography)では、内径拡張(Increased luminal diameter)を示した複数の腸管が認められ、右側腹壁に沿って膨満した小腸が観察される症例が多いことが報告されています。また、腹水検査(Abdominocentesis)では、蛋白濃度の上昇と白血球数の増加を呈します。網嚢孔への小腸の迷入は、左側→右側もしくは右側→左側への両方向に起こる可能性があり、どちらの病態が頻発するかに関しては症例報告によって差異が見られます。

網嚢孔捕捉の治療においては、内科的療法では制御不能な疼痛症状(Uncontrollable pain)を示すことが殆どで、正中開腹術(Midline celiotomy)による外科的整復が必要です。捕捉されている小腸の遊離に際しては、大静脈および門脈の破裂を防ぐため、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Sodium carboxymethylcellulose)などの潤滑剤を多量に用いながら、極めて慎重に腸管を操作し、切開創に向かって上方へ引き出すのではなく、馬体に対して水平方向(=網嚢孔に対して垂直方向)に引っ張ることが重要です。また、網嚢外にある正常な小腸をあえて網嚢内へ押し入れて、捕捉されている部位の腸管膨満を拡散させることで、よりスムーズに小腸を引き出すことが可能となります。この際には、腸管切開術(Enterotomy)によって内容物の除去を要する場合もあります。大静脈および門脈の破裂の危険を考慮して、網嚢孔を広げて腸管の遊離を試みる手法は禁忌とされています。捕捉部腸管の遊離後には、絞扼や壊死を起こした小腸の切除&吻合術(Small intestinal resection and anastomosis)が行われます。

網嚢孔捕捉の予後は不確定で、開腹術後の治癒率は二割~九割まで症例報告によって様々で、小腸絞扼および壊死の重篤度に大きく左右されることが示唆されています。病態が長期経過を呈した症例においては、致死性低脂血症(Fatal hypoglycemia)、門脈血栓(Portal vein thrombus)、肝臓の虚血性壊死(Liver ischemic necrosis)、門脈破裂(Portal vein rupture)などの合併症も報告されています。

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