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馬に鞭を使うと本当に速く走るのか?

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競走馬における鞭の使用とレース成績の関係が調査されています。
David Evans, Paul McGreevy. An investigation of racing performance and whip use by jockeys in thoroughbred races. PLoS ONE. 2011;6(1): e15622:1-5.

この研究では、GPS(Global positioning system)を用いて、オーストラリアにおける幾つかのサラブレッド平地レースの解析が行われ、レース終盤の三区間(ゴール前の200メートル、200~400メートル、400~600メートル)における鞭の使用回数と、その馬の走行速度、および着順が比較されました。その結果、ゴール前の400メートル地点では、騎手が鞭を使わなかった馬の走行速度が最も速いことが分かり、また、ゴール直前の200メートルでは、疲労している馬ほど鞭を使われる回数が多かったことが示されました。そして、重要な発見としては、このゴール前の鞭の使用と、馬の走行速度のあいだには比例関係は認められず、さらに、ゴール着順にも有意には相関しなかったことが報告されています。つまり、馬に鞭を使うことで走行速度の維持や増加が達成されたわけではなく、また、鞭の使用が順位を上げたり保ったりする結果につながったわけでもない、という考察がなされています。

この研究の調査対象になったレースでは、オーストラリア競馬委員会のルールに反したり、ペナルティが課せられるような鞭の使用は行われていませんでした。しかし、この調査報告の筆者は、結びの項の中で、「今回のデータに基づけば、スポーツの名の下に疲労した馬を鞭打つことを、正当化するのは極めて難しい」(These data make whipping tired horses in the name of sport very difficult to justify)と結論付けています。そして、「この研究の結果に反して、それ(=疲労した馬を鞭打つこと)が馬をより速く走らせたとしても、他の倫理的枠組みが実行を許さないだろう、ということに注目する価値がある」(It is worth noting that other ethical frameworks would not condone the practice even if it did, contrary to the findings of this study, cause horses to run faster)、とも述べられています。

しかし、この調査結果の解釈は、慎重に行う必要があります。実際のレースでは、鞭を使わないといけないような馬は勝てませんし、レース経過が鞭の使用に影響したというバイアスは避けられません。そう考えると、「鞭を使っても馬は速く走らない」ということを結論付けるのは困難ですし、また、全ての因子を完全にコントロールするような完璧な研究計画は難しいという事情を考慮すると、「鞭を使えば疲労した馬であっても必ず速く走る」というデータが示されなかった以上、考察内の一文の表現として、「疲れた馬に鞭を使うのを常に正当化するのは難しい」という言い回しにならざるを得なかったのではないか、と推測できます。つまり、本当の意味での鞭の効果を評価するためには、同じ馬を用いての複数回のタイムトライアルにおいて、鞭の使用と走行速度の関係を検討するような研究が必要であると考えられます。

さらに、この研究で示されたデータは、論文発表者が強調しているほど、鞭の使用を否定するものではないと思います。鞭の使用回数と着順とのあいだに“相関が無かった”ということは、鞭の使用回数に比例して着順が良くなったわけではない(=正の相関は無かった)という解釈ができると同時に、着順の良い馬ほど常に鞭の使用回数が少なかったわけでもない(=負の相関も無かった)という見方もできます。つまり、馬なりで鞭を殆ど使わずに圧勝した馬もいれば、ある程度の鞭を使うことで逆転勝利した馬もいる、という、至極、当たり前の現象を示したデータであると言えます。そういう観点に立てば、鞭の使用そのものの善悪を問うのではなく、どこからが「行き過ぎた鞭の使用」であるかの、線引きの議論をする必要があるのかもしれません。

例えば、イギリスのサラブレッド平地レースでは、(1)鞭の使用は合計七回まで、(2)最後の一ハロンでの鞭の使用は五回まで、というルールになっています。七回以上の鞭の使用を「行き過ぎ」とする線引きには、不服を唱えている騎手もいるそうですが、動物愛護の風潮が強いヨーロッパでの競馬にあっても、「馬に鞭は一切使うべきではない」という極論は採用せず、適切な範囲内での鞭の使用は競馬というスポーツの要素の一部分である、という基準を定めたことは、極めて妥当な判断ではないかと思います。

乗馬競技においても、演技中には鞭を使えないドレッサージュ競技がある反面、障害飛越ではコース中にある程度の鞭の使用は許可されているという違いがあり、鞭を使うタイミングや回数を「スポーツの要素の一部分」とするかに関しては基準の多様性があります。しかし、たとえ障害飛越競技においても、鞭の使用が「行き過ぎ」だと審判が判断すれば失格になります。そういう意味では、「無意味に鞭を連打すること」が馬の福祉に反するという理念は、馬に関わる全てのスポーツにおいて共通であると思いますし、そうであって欲しいと願っています。

もちろん、人間が馬に乗る以上、鞭を使うという行為自体は避けられませんし、鞭を正しく使うことで、騎乗者と馬のコミュニケーションを助けるという側面も存在すると思います。しかし、今回の調査報告が示したように、無意味な鞭の使用は馬の福祉(Horse welfare)に反するだけでなく、競走成績に対してもプラスに働いていない場合もある、という事象を忘れないことが重要であると言えるのではないでしょうか。

Copyright (C) nairegift.com/freephoto/, freedigitalphotos.net/, ashinari.com/ All Rights Reserved.

関連リンク:
[1] Whipped horses don't go faster – scientists. News.coma.au. September 6th, 2011.
[2] How Many Times Should A Jockey Whip A Racehorse? Care2.com. September 27th, 2011.
[3] Marie Rosenthal. Do Whips Encourage Racehorses to Run Faster? The Horse. Article #18886. September 28th, 2011.
[4] Harley Waxer. The whipping of racehorses. Can Vet J. 2009; 50(4): 337.
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