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馬の病気:前庭疾患

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前庭疾患(Vestibular disease)について。

前庭は平衡維持(Balance maintenance)と重力に対する反射配向性(Reflex orientation to gravity)をつかさどる器官で、内耳神経(Vestibulocochlear nerve: 8th cranial nerve)および、受容体である膜性迷路(Membranous labyrinth)の内部にある蝸牛(Cochlea)、球形嚢(Saccule)、卵形嚢(Utricle)、三半規管(Three semicircular canals)などから構成されています。蝸牛が聴覚機能(Auditory function)を司るのに対して、三半規管は膨大部有毛細胞(Ampulla hair cells)が外リンパ液(Perilymph)の動きを察知することで、体軸回転を探知(Body rotation detection)する機能を担っています。また、球形嚢と卵形嚢にある耳石膜(Otolithic membrane)は、表面にある耳石(Otoliths)の動きを察知して、頭部の静止位置(Head static position)を感知する機能を担っています。前庭疾患は異常部位によって、末梢性前庭疾患(Peripheral vestibular disease)と中枢性前庭疾患(Central vestibular disease)に区別され、その鑑別診断(Differential diagnosis)は治療方針決定と予後判定のため重要です。

末梢性前庭疾患の臨床症状としては、捻転斜頚(Head tilt)、眼振(Nystagmus)、旋回運動(Circling)などが見られ、病態の進行に伴って非対称性歩行失調(Asymmetric ataxia)を呈します(しかし虚弱は見られない)。中枢性前庭疾患では同様な症状に加えて、抑鬱(Depression)、固有受容性欠陥(Proprioceptive deficit)、虚弱(Weakness)、脳神経欠陥症状(Cranial nerve deficit)などが見られます。捻転斜頚では、頭頂部を前庭異常が起きている側へ傾け(Head poll toward the affected side)、旋回運動では、前庭異常が起きている側へ回転する(Circle toward the direction of the lesion)ことが一般的です。末梢性前庭疾患における眼振では、水平または回転眼振(Horizontal/rotary nystagmus)を示し、前庭異常が起きている側から遠ざかる方向に起こり(Directed away from the lesion)、頭部の位置の変化によって眼振に変化が起きない事を特徴とします。中枢性前庭疾患における眼振では、水平・回転・垂直眼振(Horizontal/rotary/vertical nystagmus)を示し、頭部の位置の変化によって眼振に変化が起きる事もあります。片側性の末梢性前庭疾患では、内側縦束(Medial logitudinal fasciculus)における前庭視覚経路交差(Vestibuloocular crossing pathway)が阻害され、前庭異常が起きている側への眼偏位(Eye deviation toward the lesion)も観察されます。また頭部を挙上させることで(末梢性及び中枢性前庭疾患の両方において)、腹外側斜視(Ventrolateral strabismus)が観察される場合もあります。前庭疾患に伴って、蝸牛の異常を併発した場合には聴覚喪失(Hearing loss)、三叉神経(Trigeminal nerve: 5th cranial nerve)の異常を併発した場合には咀嚼筋萎縮(Mastication muscle atrophy)、外転神経(Abducens nerve: 6th cranial nerve)の異常を併発した場合には内側斜視(Medial strabismus)、顔面神経(Facial nerve: 7th cranial nerve)の異常を併発した場合には口唇偏位(Muzzle deviation)や耳垂(Ear droop)を起こす症例もあります。前庭疾患の臨床症状は、視覚適応(Visual accommodation)によって数週間中に外見的には改善するため、目隠し(Blindfolding)を着けた際に捻転斜頚や歩行失調が悪化する所見で、本当に前庭異常部の治癒による症状改善なのか否かを見極めます。

馬における前庭疾患は、中耳炎(Otitis media)および頭蓋骨骨折(Skull fracture)に起因する末梢性前庭疾患が最も一般的です。中耳炎は、血行性(Hematogenous)または耳管上行性感染(Ascending infection from the eustachian tube)によって引き起こされ、鼓室嚢胞(Tympanic bulla)の慢性炎症から側頭舌骨融合(Temporohyoid bone fusion)を続発し、斜体側頭骨(Petrous temporal bone)の骨折、神経損傷(5th to 8th cranial nerves)へと進行します。そして、炎症が内側聴覚道(Internal acoustic meatus)へと波及すると、限局性化膿性髄膜炎(Focal suppurative meningitis)を起こし、発熱や抑鬱症状を呈します。頭蓋骨骨折では、外傷性の斜体側頭骨骨折、頭直尾筋(Rectus capitis venralis)の緊張による基底後頭骨(Basioccipital bone)または基底蝶形骨(Basisphenoid bone)の裂離骨折(Avulsion fracture)などから前庭疾患が引き起こされます。また稀に、アミノグリコサイド系抗生物質投与によって有毛細胞が萎縮し、前庭疾患と聴覚喪失を生じることも報告されています。

前庭疾患の診断では、X線検査によって、側頭舌骨と斜体側頭骨の特徴的な骨膜増殖(Periosteal proliferation)と硬化症(Sclerosis)を確認します。核シンチグラフィー検査(Nuclear scintigraphy)では、X線的異常を呈する前の初期病変を発見できる可能性も示唆されています。また、全身麻酔下で耳鏡検査(Otoscopy)を行い、経鼓室洗浄液(Transtympanic lavage)を用いての細胞診(Cytology)、細菌培養(Bacterial culture)、抗生物質感受性試験(Antibiotic susceptibility test)も有用な診断法です。二次性の髄膜炎を除外診断(Rule-out)するため、全ての前庭疾患症例において、脳脊髄液(Cerebrospinal fluid)の検査を実施することが推奨されます。喉嚢(Guttural pouch)の内視鏡検査(Endoscopy)では、中耳炎に起因する近位茎突舌骨(Proximal stylohyoid bone)の骨性増殖(Bony proliferation)が観察されます。

中枢性前庭疾患は、細菌性膿瘍(Bacterial abscess)、馬原虫性脊髄脳炎(Equine protozoal myeloencephalitis)、馬尾神経炎(Polyneuritis equi)、ウイルス性脳炎(Viral encephalitis)、迷走性寄生虫移入(Aberrant parasite migration)などによって引き起こされます。診断としては、異常精神状態(Abnormal mentation)を呈する臨床症状の確認に加えて、脳脊髄液を用いての細胞診、細菌培養、S. neurona抗体の検出などが行われます。また、外耳管(External auditory canal)に冷水を注入して水平眼振の発現を観察する手法(いわゆる熱量試験:Caloric testing)によって、機能不全に陥った三半規管(=水平眼振を起こさない)を確認することで、末梢性前庭疾患と中枢性前庭疾患の鑑別診断も試みられています。そして、中枢性前庭疾患は一般的に聴覚喪失を伴わない点を利用して、脳幹聴性誘発電位(Brainstem auditory evoked response)を測定し片側性聴覚喪失を確かめることで、末梢性と中枢性の前庭疾患を鑑別する方法も報告されています。

前庭疾患の治療としては、長期にわたる広域抗生物質(Broad-spectrum antibiotics)と非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与が行われ、脳神経への炎症波及が疑われる症例ではDMSOも併用されます。側頭舌骨融合を起こした症例では、茎部舌骨部分切除術(Stylohyoid partial ostectomy)またはCeratohyoid骨切除術(Ceratohyoid ostectomy)によって、融合した側頭舌骨への負荷減退が試みられます。中枢性前庭疾患が疑われる症例では、病原体に応じて、駆虫薬(Anti-parasitic drugs)、トリアジン誘導薬(Triazine derivative drug)、抗コクシジウム薬(Anticocidial drug)などが用いられます。

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