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馬の病気:腱鞘炎

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腱鞘炎(Tenosynovitis)は球節掌側部の屈筋腱鞘(Flexor tendon sheath)に多く見られ、非感染性(Non-infectious)または感染性(Infectious)の病態を呈します。

非感染性腱鞘炎は、細菌感染(Bacterial infection)(または真菌感染:Fungal infection)を伴わない腱鞘滑膜炎や腱鞘包炎(Tendon sheath synovitis/capsulitis)を起こす疾患です。この病気は、後肢の追突(Hindlimb overreach)や球節の過伸展(Fetlock hyperextension)に起因することが一般的ですが、浅屈腱炎や深屈腱炎(Superficial/Deep digital flexor tendinitis)から波及して発症する場合もあります。腱鞘滑膜炎や腱鞘包炎に加えて、腱紐(Vincula)、Manica flexoria(屈腱を輪状に取り巻く支持組織)、臓側・壁側滑膜層(Visceral/Parietal synovial layer)などの腱鞘内部の結合組織損傷を併発した症例では、癒着(Adhesion)を伴う慢性腱鞘炎(Chronic tenosynovitis)を起こし、輪状靭帯の肥厚化(Thickening of annular ligament)と腱鞘狭窄(Tendon sheath stenosis)(いわゆる輪状靭帯症候群:Annular ligament syndrome)を続発する場合もあります。

非感染性腱鞘炎の症状としては、急性発現性(Acute onset)の軽度~中程度跛行(Mild to moderate lameness)、腱鞘膨満(Tendon sheath distension)、球節掌側部の熱感(Heat)と圧痛(Pain on palpation)などが見られ、遠位肢屈曲試験(Distal limb flexion test)による跛行悪化(Lameness exacerbation)が認められます。非感染性腱鞘炎の確定診断(Definitive diagnosis)は超音波検査(Ultrasonography)によって下され、ステージ1~3の病態類別法が用いられています。また、種子骨近位部から繋中央部にわたる慎重な超音波検査(Ultrasonography)によって、屈腱損傷(Flexor tendon injuries)、種子骨間靭帯炎(Intersesamoidean ligament desmitis)、種子骨遠位靭帯炎(Distal sesamoidean ligament desmitis)などの除外診断(Rule-out)を行うことも重要です。

非感染性腱鞘炎の治療では、急性病態においては、馬房休養(Stall rest)、圧迫肢巻(Pressure bandage)、冷水療法(Cold hydrotherapy)、抗炎症剤の全身投与(Systemic anti-inflammatory therapy)が行われます。1~2週間の保存性療法(Conservative treatments)による症状改善が見られない症例においては、ヒアルロン酸とコルチコステロイドの腱鞘内注射(Intrathecal injection)が実施される場合もあります。しかし、浅深腱炎や深腱炎を併発していた症例では、ステロイドによる一時的疼痛緩和(Temporary pain release)によって、運動開始後に腱炎悪化を起こす危険があるため、超音波検査でエコー輝度(Echogenicity)の異常や腱横断面積増加(Increased cross-sectional area:対側肢との比較差が39%以下)が見られなかった症例に対してのみ、コルチコステロイド注射を行うことが推奨されています。慢性に経過した腱鞘炎の治療では、腱鞘の滑液吸引(Synovial fluid aspiration)、および、ヒアルロン酸とコルチコステロイドの腱鞘内注射が施され、輪状靭帯症候群を併発した症例では、起立位または腱鞘鏡手術(Tenoscopy)による輪状靭帯切断術(Annular ligament desmotomy)が施される場合もあります。

非感染性腱鞘炎の予後は一般に良好ですが、腱炎を併発したり輪状靭帯症候群を続発した場合には、予後が悪いことが知られています。また、慢性的な腱鞘膨満による腱鞘包弛緩(Flaccid tendon sheath)が呈した症例では、外観の完治は難しいことが報告されています。この場合、滑液吸引後にアトロピンを腱鞘内注射することで、腱鞘包弛緩の改善が試みられる事もありますが、その効能に関しては賛否両論(Controversy)があります。

感染性腱鞘炎は、細菌感染を伴った腱鞘滑膜炎や腱鞘包炎を起こす疾患で、穿孔性創傷(Penetrating wound)に起因することが一般的で、緊急治療(Emergency treatment)を要する極めて重篤な病態です。初診時に穿孔部位が塞がっていたり、血行性細菌感染(Hematogenous bacterial infection)から発症する場合もあるため、外傷の有無だけで感染性腱鞘炎を除外診断することは適当ではない、という警鐘が鳴らされています。

感染性腱鞘炎の症状としては、急性発現性の重度~不負重性跛行(Severe to non-weight-bearing lameness)に加えて、腱鞘の熱感と膨満が見られますが、穿孔性創傷部位に排液孔(Drainage tract)が生じた場合には、腱鞘滑液の貯留は顕著ではない場合もあります。遠位肢の蜂窩織炎(Cellulitis)に併発して起こった腱鞘炎では、広範囲にわたる皮下浮腫(Subcutaneous edema)のため、腱鞘膨満の触診が困難なこともあるため、超音波検査を介して腱鞘滑液増加を確認することが大切です。

感染性腱鞘炎の診断では、腱鞘の滑液検査(Synovial fluid analysis)によって、白血球数の増加(>30000WBC/uL)、好中球含有率の増加(>90%)、蛋白濃度の上昇(>4.0g/dL)などを確認することが重要です。また、腱鞘滑液を用いての細菌培養(Bacterial culture)と抗生物質感受性試験(Anti-microbial susceptibility test)を介して、適切かつ有効な治療薬を選択することが推奨されています。穿孔性創傷の発症直後において、腱鞘内部への穿孔の有無を確認する場合には、腱鞘内に注入した滅菌生理食塩水(Sterile saline)の創傷部からの漏出試験や、腱鞘内造影剤を用いてのレントゲン検査などが有効です。

感染性腱鞘炎の治療には緊急手術を要し、腱鞘鏡手術による滑膜清掃(Synovial debridement)、腱鞘洗浄(Tendon sheath lavage)、排液孔形成(Creation of drainage tract)とペンローズドレインの留置、抗生物質の注入(Antibiotic infusion)が行われます。重篤な腱鞘膨満と輪状靭帯肥厚を呈した症例では、輪状靭帯切断術が併行して実施される事もあります。術後には、排液孔からの継続的な腱鞘洗浄と抗生物質注入を実施することに加えて、抗生物質の全身投与や局所灌流(Regional perfusion)が併用されます。経時的な腱鞘滑液検査によって、細菌感染の回復が確認されれば、ドレインを除去して圧迫肢巻による排液孔の二次性治癒(Secondary healing)を促します。また、ドレイン除去の二週間後にヒアルロン酸の腱鞘内注射を行い、常歩運動を開始することで、癒着形成を予防することが推奨されています。広範囲にわたる裂傷(Laceration)の縫合を要した症例では、遠位肢ギプス装着(Distal limb cast application)によって、整復部の保護と創傷治癒の促進が期待できますが、長期にわたる球節不動化(Fetlock immobilization)は、腱鞘内における癒着形成を引き起こす危険が高いため禁忌(Contraindication)とされています。

感染性腱鞘炎は予後不良を呈することが多く、回復後にも腱鞘内癒着に起因して慢性の軽度跛行を示し、競走や競技への復帰が困難となる症例が多いことが報告されています。

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