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馬の病気:浅屈腱炎

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浅屈腱炎(Superficial digital flexor tendinitis)について。

浅肢屈筋腱(Superficial digital flexor tendon)の微細断裂(Microrupture)と炎症を生じる疾患で、平地競走馬の前肢に好発し(発症率:7~43%)、右前肢よりも左前肢に、スタンダードブレッドよりもサラブレッドに多く見られる事が報告されています。浅屈腱炎の病因(Etiology)としては、筋疲労(Muscle fatigue)による球節過伸展(Fetlock overextension)に起因する浅屈腱の過剰緊張(Excessive strain)が挙げられ、過長蹄尖(Long toe)や低蹄踵(Low heel)などの異常蹄形(Abnormal hoof conformation)や、腱中心部の高温化による腱繊維変性(Tendon fiber degeneration)などが発症素因(Predisposing factors)であると考えられています。

浅屈腱炎の症状としては、軽度の病態(分類II~IV)では跛行を示すことは殆どないものの、中程度の病態(分類V)では一過性跛行(Transient lameness)を呈し、また、重度の病態(分類VI)では急性発現性(Acute onset)に顕著な跛行(Marked lameness)が認められます。また、急性期においては、患部の熱感(Heat)、腫脹(Swelling)、圧痛(Pain on palpation)などが認められ、慢性期においては腱肥厚化(Tendon thicking)に伴う掌側管部の膨隆(いわゆるBowed tendon appearance)を示します。

浅屈腱炎の診断は、通常、触診と視診によって下され、診断麻酔(Diagnostic anesthesia)を要することは稀ですが、超音波検査(Ultrasonography)によって確定診断(Definitive diagnosis)が下され、中心部病巣(Core lesion)や拡散病巣(Diffuse lesion)の病態把握などが行われます。この際には、病巣部の定量的分析(Quantitative analysis)を介して、適切な治療指針の決定と、正確な予後判定(Prognostication)に努めることが重要です。また、初回の超音波検査は、症状発現後の一週間以内に実施され、浅屈腱炎が疑われる症例において異常所見が顕著でない場合には、運動を制限しながら四週間後に再検査を行うことが推奨されています。そして、超音波検査の際には、滑膜液増量(Synovial fluid accumulation)や輪状靭帯絞窄(Annular ligament constriction)などの併発を確認することも大切です。

浅屈腱炎の内科的治療としては、急性期では冷水療法(Cold hydrotherapy)、圧迫肢巻(Pressure bandage)、非ステロイド系抗炎症剤(Non-steroidal anti-inflammatory drugs)の投与が行われます。保存的療法(Conservative therapy)では、半年~九ヶ月の馬房休養(Stall rest)が必須とされ、継続的な超音波検査を用いて、治癒過程をモニタリングすることが重要です。この際、運動回帰時期の決定のため、(1)総病巣率の60%以上の減少(At least 60% decrease of total %lesion)、(2)総病巣横断面積の12%以上の減少(<12% decrease of total cross-sectional surface area)、(3)総病巣型スコアの70%以上の減少(At least 70% decrease of total lesion type score)、(4)総繊維走行スコアの75%以上の減少(At least 75% decrease of total fiber alignment score)、という四つの指針が示されており、最低でもこの四つのうち三つを満たす患馬のみ、運動に復帰するべきである事が提唱されています。

浅屈腱炎の保存的療法(Conservative treatment)に際しては、PSGAGの病巣内投与(Intra-lesional injection)が併用される場合もあります。一般的に、PSGAGはCollagenaseおよびMMPの活性と大食細胞の賦活化(Macrophage activation)を抑制するものの、腱繊維芽細胞(Tendon fibroblasts)の活動は阻害しないため、繊維性瘢痕組織(Fibrous scar tissue)の形成を減退させながら、健常な腱繊維の組成を向上できると考えられています。同様に、ヒアルロン酸の病巣内投与が応用される場合もあり、異常癒着(Abnormal adhesions)の防止と、腱繊維構築の亢進(ヒアルロン酸は腱組織基質であるため)が期待できるとされています。また、多血小板血漿(Platelet-rich plasma)の病巣内投与によって、IGF、TGF-beta、PDGFなどの多くの成長因子(Growth factors)を治癒部位に補給して、腱組織再生を活性化させる手法も試みられています。急性病態における中心性病巣に対しては、BAPN(Beta-aminopropionitrile fumarate)の病巣内投与を介して、腱繊維同士の架橋形成(Crosslink of tendon fibers)を減速させることで、運動による腱繊維の縦軸方向への走行(Longitudinal alignment)を促進させる療法が行われる場合もあります。一方、焼烙やブリスターの治療効果は科学的裏付が乏しく、休養を強要させる事による効能しか存在しないという説もあり、その実施には賛否両論(Controversy)があります。

浅屈腱炎の外科治療としては、近位支持靭帯切断術(Proximal check ligament desmotomy)によって、浅屈腱の緊張緩和(Tension release)を行う手法が最も多く用いられており、腱鞘を切開したり、腱鞘鏡手術(Tenoscopy)を介してアプローチする術式が報告されています。この際、初期病態における腱繊維断裂が重篤な場合においては、近位支持靭帯の切断による効能があまり期待できないため、横断病巣面積(Cross-sectional lesional area)が腱横断面積の10~15%である症例が、最も近位支持靭帯切断術の応用に適していると考えられています。近位支持靭帯の切断術は、浅屈腱炎の発症が確認され次第、できるだけ早期に施術することで、治癒期における瘢痕組織の形成を減退させる効能が期待できます。しかし、体外実験では、近位支持靭帯の切断によって球節の過伸展に伴う繋靭帯炎(Suspensory desmitis)を続発する危険が示唆されています。

浅屈腱炎が遠位管部(Distal metacarpus)に浸潤した症例において、浅屈腱の肥厚化と腱鞘滑液の増加に起因して、輪状靭帯絞窄を生じて、正常な浅屈腱の滑走機能(Gliding function)が妨げられていると判断された症例においては、輪状靭帯切断術(Annular ligament desmotomy)による腱鞘周囲の緊張緩和が行われます。また、浅屈腱の肥厚化が近位管部(Proximal metacarpus)に浸潤した症例においては、帯膜切断術(Fasciotomy)を介しての腱支帯遊離(Tendon retinaculum release)によって、疼痛緩和と跛行症状の改善が試みられる事もあります。そして、超音波検査によって無エコー性の中心性病巣(Anechoic core lesion)が認められた症例においては、腱分割術(Tendon splitting)によって出血発現部位の除圧(Hemorrhage decompression)を施して、過剰な肉芽組織形成(Excessive granulation tissue)を防止する療法が用いられる場合もあります。しかし、肉芽組織が生成されてしまった後では、手術による効能があまり期待できないため、確定診断後できるだけ早期に(理想的には3~5日以内に)施術する必要があると考えられています。

浅屈腱炎の治癒過程では、弾性腱繊維(Elastic tendon fibers)が繊維性瘢痕組織に置換されるため、腱強度の低下を生じることから、再発率(Recurrence rate)の極めて高い疾患であることが知られています。予後予想に際しては、超音波検査における病巣部の定量的分析が有用であることが提唱されており、軽度の病態(分類I~III)では88%の症例が競走復帰し、三回以上の出走が可能であった事が示されていますが、中程度~重度の病態(分類IV~VI)では三回以上の出走が出来たのは35%の症例に過ぎず、また82%の症例において浅屈腱炎の再発が見られた事が報告されています。

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